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迎えた翌週、名前との約束の日。こんな日に限って子供達が遊びに来てしまったが、彼女が来る頃にはまた博士の家に戻っていくだろう。

昨日、とうとう彼は本当の仲間を引き連れてここに乗り込んできた。まさに狙い通りのタイミングだったが、それもまた上手くやり過ごすことができたのは、ボウヤと工藤夫妻の協力があったからだ。

今回の件がきっかけとなり、ジョディとキャメルにも俺の生存が知らされることになった。これまでの経緯と新たに得た情報を伝えるために二人をここに呼び、それらの情報を口頭で伝える。全ての用件を伝え終えると、ジョディも話があると言うので耳を傾けた。

「このこと、もちろんあの子は知らないのよね?」

ジョディが言うあの子とは、もちろん名前のことだ。「ああ」と一言で返事をすると、釈然としない顔で俺に文句を垂れ始めた。

「どうしてあの子にだけは生きていることを教えてあげなかったのよ。あの子が今どんな気持ちでいるか……」
「彼女は俺達のように生きてはいない。こんなことに巻き込んでしまったら、彼女はこの重圧に耐えられると思うか?」

名前に伝えるということは、どうして俺が死んだことにならなければいけないのかということや俺の立場まで、全て話す必要がある。純真無垢な名前が深い闇を抱えるような話を聞いて耐えられるとは到底思えなかった。

「それはそうかもしれないけど、あの子がどれだけ苦しんでるか知らないでしょう!? だからそんな事言っていられるのよ」

段々とジョディが声を荒げ始めた。名前のことをよく気にかけ可愛がっていたのだから、余程心配しているのだろう。ジョディが言いたいことも理解はできる。

「ジョディさんが言う"あの子"とは誰のことを……」
「キャメルは黙っててちょうだい!」

ついこの間までアメリカにいたキャメルは名前のことを知るはずがない。話の流れからも理解が追い付かないようで、それをジョディに聞いてみても、ヒートアップし始めているジョディに一刀両断にされた。入る余地がなくなったキャメルは口を開くこともなく、ただひたすら隅で俺達の方を見ながら話を聞いている。

「とにかく、あの子はシュウがいなくなったことで心に深い傷を負っているわ。どうせあなたはそんなこと知らないでしょうけど」
「俺が知らないはずないだろう」
「そう……だったら……! ……いえ、もういいわ。でも知らないわよ。あの子彼氏できたらしいから。まだシュウのこと全然忘れられていないようだったけど、あの子の彼、随分本気みたいよ。その彼に名前、取られるかもしれないわね」

驚いたことにジョディは名前から色恋沙汰の相談まで受けていたらしく、彼女に新たな恋人がいるという事実を既に知っていた。本気に決まっているだろう、相手は俺なのだから。だがジョディは相手がどこの誰なのかまでは知らないようだった。

「……知っているさ。その相手が誰なのかもな」

どうにも居たたまれなくなり、ポケットから煙草を取り出して火をつけた。

「なんでそんなことまで知って……ちょっと待って……まさか、名前の彼氏って……」

こういう話のときだけ勘の鋭いジョディは、どうやらあいつの恋人がこの姿の俺だということに気付いたようで、俺を指差しながら呆気にとられている。「ああ」と一言返事をすると、先程こちらに向けていた鋭い眼差しは力が抜け、溜め息をつきながら項垂れた。

「……ほんと呆れた。あなたどれだけ不器用なのよ。そこまでするくらいなら、さっさと名前に本当のことを教えてあげればいいじゃない」
「いや、それはできん」

あいつに全てを話すことができるなら、とうの昔にそうしている。それができないからこうして姿を変えてからも繋ぎ止めていると言うのに。伝えることのできない思いを覆い隠すように、煙草の煙を吐き出した。

「もういいわ。どうせ私が何言ったって聞かないんだから。行きましょ、キャメル」
「あ、ジョディさん待ってください!」

怒りに身を任せるようにジョディは部屋から出ていった。俺に「すみません」と断りを入れてから、キャメルもジョディの後を追うように去っていく。

彼女を苦しめていることなど、ジョディに言われるまでもなく俺が一番痛感している。確かに全てを打ち明けることができるのなら、彼女はもう何も思い悩むことも、俺と沖矢昴に挟まれ苦しむこともないだろう。しかし全てを打ち明けることで彼女も巻き込まれる可能性が生まれ、俺と同じ重みを抱えることになる。本当にそれでいいのだろうか。

もうすぐ名前がここに来る時間だ。




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