02
「えっと……どういうこと……?」

こんな小さな少年が一緒に計画を実行したなんて、とても言っている意味が理解できない。そもそも赤井さんはFBIの捜査官だと言っていた。なのにどうしてこんな子どもと知り合いなのだろう。

というか、実は未だに赤井さんが亡くなったことになっている経緯というのがよく分かっていない。ざっくりとした説明は聞いたけれど、あのときはあまりにも予想外なことが起きていたし、他にも驚くべき事実ばかりが並べられたので、全てを理解するなど到底不可能だった。そもそも生きている人間を亡くなったことになんてできるのだろうか。理解できないことが多すぎる。

「要は俺の協力者だということだ。このボウヤも、そして有希子さんもな」

二人とも協力者。協力者と言われた有希子さんとコナン君の顔を交互に見ると、二人ともとてもよく似た笑顔を浮かべていた。この二人がどういう関係なのかはよく分からないけど、きっと親しい間柄なのだということはなんとなく雰囲気で分かる。

「コナン君は、どうしてここに? 近所の子?」
「ボクも有希子おば……お姉さんと同じで、名前お姉さんに会ってみたくって来ちゃった。五丁目の毛利探偵事務所って知ってる? ボク、そこの居候なんだ」

一瞬言葉を詰まらせたときに何故か青ざめた顔をしていたが、すぐに元の調子に戻ってコナン君は話を続けた。毛利さんもこの辺りでは有名な人なのでもちろん知っているけれど、こんな小さな子が居候だなんて、一体この子に、この子の家族に何があったのだろう。きっと何か聞いてはいけないような事情があるに違いない。そう思い、詳しいことを聞くのは止めにした。

「そうなんだ……。でもなんで私に?」
「お姉さんってさ、赤井さんが昴さんになる前から赤井さんと付き合っているんでしょ? 昴さんになってからも、赤井さんってことは知らずに付き合ってたんだよね? 赤井さんがそこまでするくらい好きな人がどんな人か気になってさ」

本当に子どもって恐ろしい。無邪気な顔をしてこんなストレートに聞いてくるのだから。コナン君の言葉を聞いた途端、私の顔は一瞬にして熱を持った。

この間の一件を受けて、私はちゃんと秀一さんに愛されているのだと少なからず自覚はしていた。今までは心のどこかで多少不安を感じていたけれど、危険を冒してまで昴さんとして私の側にいてくれて、ずっと支えてくれていたのだ。私のことをあっさりと捨てるのではなく、むしろ寄り添ってくれた。
私が秀一さんを好きなように、秀一さんもまた私を好きでいてくれる。あの出来事は本当に辛かったけれど、それを乗り越えた分秀一さんに対する思いが本物で、秀一さんも同じ気持ちでいてくれるということをやっと確信した。

でも自分で思っているのと、誰かから言われるのとでは感じ方が違う。第三者から言われるとやっぱり照れる。

「ボウヤ、そのくらいにしてやってくれ」

顔を赤らめて何も言えなかった私をフォローするかのように、秀一さんがコナン君にそう伝えてくれた。助かった。でもそう思ったのは一瞬のことだった。

「えぇーっ!? いいじゃない! もっと聞かせて!」

一番興味津々だったのは有希子さんだったのだ。相変わらず顔は熱を持ったままだけど、有希子さんに質問攻めにされては答えざるをえない。この感じ、前に経験したことがある。……あぁそうだ、思い出した。ジョディさんに会ったときと同じだ。

さっきコナン君からこの話を振られたときはフォローしてくれた秀一さんも、さすがに有希子さんには何も言わなかった。言えなかった、という方が正しいかもしれない。秀一さんよりも年上の相手だから仕方ないのだろう。"秀ちゃん"なんて呼ばれてるくらいだし。

私の話を楽しそうに聞く有希子さんは、年上の女性には失礼な言葉かもしれないけど本当に可愛くて。有希子さんは有希子さんで、私に秀一さんのことを聞く代わりに旦那さん……工藤先生や息子の工藤新一くんの話も聞かせてくれるものだから、つい話が盛り上がってしまった。

それを見ていた二人……特にコナン君は私たちの話にいい加減飽きたのか、日が傾きかけた頃には「ボクもう帰るから」と呆れた顔をしてそう言った。その言葉で有希子さんは何かを思い出したかのように、ちらりと腕時計を見て大きな声を上げた。

「やばっ! また時間忘れてた! ごめんね名前ちゃん、私これからロスに戻らなきゃいけないの。またいつでも遊びに来てね! それと……」

"秀ちゃんと仲良くね"

最後の言葉は、私にしか聞こえないような小さな声で囁かれた。語尾にはハートマーク、そしてウインク付きで。こんな間近での元大女優さんからのウインクは破壊力がありすぎて、私は骨抜き状態。結局また立ち上がることはできず、有希子さんを見送りに行くこともできなかった。



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