06
工藤邸に戻る途中、正面からこちらに向かって歩いてくる見覚えのある小さなシルエット。その隣には制服を着た高校生の女の子が三人。少年──コナンくんが私に気付いたようで、あっ、という顔をして一人こちらに駆け寄ってきた。

「名前さん、こんにちは。あれ、その荷物……旅行?」
「ううん、実は空き巣に入られちゃって……。鍵は直してもらったんだけど、一人でいるのも怖いから少しの間秀一さんのところ……違うね、工藤さんのお家にお邪魔することになったの。コナンくん、空き巣が多いって言ってたからちゃんと鍵かけてたんだけどね……」
「鍵かかってたのに空き巣に入られたの?」

苦笑いを交えながら昨日起こったことを伝えると、コナンくんは少し驚いているようで目を見開いた。

「そうなの。玄関の鍵がこじ開けられてて……。大家さんにも最近にしては珍しいって言われちゃった。窓の鍵も閉めたはずなんだけど窓が開いてたから、もしかしたら閉め忘れちゃったのかな……」
「そうなんだ……」
「金目のものはないし財布も持ち歩いてたから何も盗られなかったんだけどね。……コナンくん?」

うーん、と何かを考え込むような仕草。その顔が大人びていてとても小学生には見えなかったけれど、あの秀一さんが一目置いている子だと思ったらすぐにそんなことは気にならなくなった。

「ううん、大変だったんだね。名前さんに被害がなくてよかった!」

そう言うコナンくんの表情があどけないものに戻り、心配そうな目をして私のことを見ている。こんな小さい子にまで心配をかけてしまうなんて、私、何やってるんだろう。


ちょうど会話に一区切りがついた頃、一緒にいた女子高生の三人がコナンくんに追いついた。

「コナンくんの知り合いか?」

私たちを見て最初に口を開いたのは、ショートカットでボーイッシュな女の子だった。私、コナンくんと交互に送る視線は、まるで探りを入れるかのように好奇心に溢れている。

「そうだよ。苗字名前さんって言って、すぐ近くに住んでるお姉さんなんだ」
「こんにちは」

挨拶をして、ぺこりと小さく頭を下げる。私につられるように、ショートカットの女の子は「どうも」と小さく呟きながら会釈をしてくれた。

「ごめん、コナンくん。待たせてるからもう行くね」
「うん、またね」

手を振ってくれるコナンくんに手を振り返す。一緒にいた女子高生の三人にも軽くお辞儀をして、四人が来た方へと再び歩き出した。

後ろから女の子達の声が聞こえる。概ね私とコナンくんがどこで知り合ったのか聞いているのだろう。その声を背に、私は秀一さんの待つ工藤邸に向かった。





「お帰り。鍵の交換は終わったか?」

私の帰りを待っていてくれたのだろう。いつも通り昴さんに変装した秀一さんが、玄関で出迎えてくれた。

「終わりました。今度はピッキング対策がされている鍵にしてもらえたみたいです」
「そうか。用心に越したことはないからな」
「そうですね。でもこれで少しだけ安心しました」

とは言ってもやっぱりまだ心細さは消えない。少しでもそんな不安を払拭したくて、おいでと言わんばかりにこちらに手を差し伸べる秀一さんに早く触れたくて、そそくさと靴を脱いで秀一さんに駆け寄った。
私の手をとりすぐに身体を引き寄せる。香水に混じって秀一さんの煙草の匂いがした。

今でも時々、本当に時々だけど秀一さんと昴さんが同一人物だとは思えないときがある。でも彼が愛用している煙草独特の匂いが鼻を掠めると、あぁ、やっぱり秀一さんだなと実感できるくらいには私にも彼の匂いが染み付いていた。

秀一さんの腰に両手を回して、そっと彼に身を寄せる。鍛えられた胸板に頭を預けると、秀一さんの手が私の頭の上に置かれて小さく撫でた。とくん、とくんと秀一さんの鼓動の音が聴こえる。速くもなく、遅くもない落ち着いたリズムを刻む彼の鼓動に合わせるかのように、私の心拍数も徐々に落ち着きを取り戻した。

「あ! そういえば、今そこでコナンくんたちに会いましたよ」
「また唐突だな」

バッと勢いよく顔を上げて秀一さんの顔を見上げると、秀一さんは一瞬きょとんとして、でもすぐに柔らかな微笑みを浮かべて私を見つめた。

「なんか、落ち着いたら急に思い出しちゃって……」
「そうか。ボウヤたち、ということはボウヤの他にも誰か一緒にいたのか?」
「あ、はい。コナン君の知り合いの女子高生が三人……」
「ホォー……」

秀一さんもあの子たちに会ったことがあるのだろうか。なんとなく秀一さんの表情が楽しそうなものになったので、私は思わず首を傾げた。

「いや、何でもない」

そう言うと秀一さんの目がすっと細められ、頭のてっぺんに口づけが落とされた。くすぐったくて、でも嬉しくて。目を閉じてまた秀一さんにそっとすり寄る。秀一さんはまた腕に力を入れて、私の身体を包み込んでくれた。



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