それから何回か校内で鈴木あおいとすれ違うことがあった。俺がガン見してもあっちの目線はいつも下向きで目が合うことは一回もなかった気がする。
そしてしばらくして俺は無事入試を乗り越えて雄英に受かった。担任の話だと鈴木あおいも合格したらしい。鈴木あおいがいつも暗い表情なのはきっと友達が言ってたような噂がつきまとってるからと俺なりに考えていた。中学の奴らがいない雄英では少しでも話せるかなと少し楽しみになった。その時は噂なんかあまり聞いてないように接しよう、左手の個性なんかなんでもないように話しかければ、なんて考えてた。
「なぁ、鈴木ちゃんって子可愛くね?」
さっそく仲良くなった上鳴の声で思わず顔を勢いよくあげる。
入学式当日、鈴木あおいはメガネの奴と一緒にクラスに入ってきた。やっぱりいくらかは表情は前より明るい。鈴木あおいをガン見するのが癖になっていた俺は席を確認している背中を見つめる。まぁ目なんてあったこと無いし、俺が同中出身なんてことも気づいていないんだろうな。
そして以前とは違うことが起こった。鈴木あおいが席に向かう途中で目がバチッとあった。え、中学の時はあんなに気づかなかったのに。何か言った方がいいんかな、なんて考えてるうち咄嗟に目をそらされてしまったけど俺は少し嬉しい気持ちになった。
そっか、少しずつ鈴木あおいは変わろうとしているんだな。表情だって以前よりは明るいし。それなら俺は応援したいな、なんて中学の時の鈴木あおいを知っている俺は心の中で思った。
きっと友達の話を聞いた後に心のどこかで鈴木あおいが心配、というか気になっていたんだ。いつも何かを背負ってるような背中とか前を見ない目とか。
唐突に行われた個性把握テストで鈴木あおいは記録がボロボロだったみたいだった。やっぱりみんなの前では左手の個性は頑なに使わなかったし多分、俺以外は右手の個性しかないと思っている。
「なぁ、鈴木ちゃんどうしたの?個性一回も使ってなくね?」
「こーゆーのに不向きなんだろ、多分」
もし自分が鈴木あおいの個性だったら、と考えたことがある。右手の個性なんか怪我がつきもののヒーロー界にはうってつけだしリカバリーガールのように引っ張りだこだろう。だけどこういう競い合うテストなどには不向きだ。
左手の個性を、使ったとする。なにか相手がうずくまるほどで走ったり投げたりできない程度に戦闘不可にする。そしてその間に自分は記録を伸ばす。すっげー有能だし効率いいけど、クラスメイトの苦しんだ顔とかうずくまる姿とかあんましいい気分ではねーような気がする。いや、爆豪みたいに仕方なく周りを巻き込んでしまうとかなら個性上しかたないし、あいつは周りが怪我したとかそういうの気にしないだろう。
鈴木あおいの噂が本当なら母親の事がよぎったりするんだろうか。
噂とかの話じゃなくて俺は1人のダチとして鈴木あおいと話したかった。それは今じゃないとダメな気がする。
教室に残って戻ってきた鈴木あおいに話しかけてみっかな。どんな声とかどんな話し方をするんだろう。俺のことわかるかな、まず同中って時点で嫌がりそうだけどまずは鈴木あおいに話しかけてみる、それからだな。