セーフで良くね?

あー、完璧遅刻だなーと思いながらも走ることはしない。
だって、疲れるし。
走った所で、遅刻であることは変わらないし。
そんなことを思いながら、いつも通り旧校舎までの道のりを歩く。
そしていつも通り校舎内に入って、いつも通り教室の引き戸を引いた。


「…あれ、浅野さんじゃん」


いつも通り教室に入ると、目に入ったのはいつもは見かけない女の子。
そして、E組にいるはずのない女の子。
そんな女の子、浅野さんはオレに名前を呼ばれてきょとんとした表情をこちらに向けた。
それから暫くして、何故か慌てだした。
そんな浅野さんの様子よりも気になったのは、彼女がなんでここ(E組)にいるのかだった。

オレの記憶が正しければ、絵に描いたような優等生ちゃんだったと思うんだけど…。
成績も素行も良好で、非の打ちどころがない女の子だったはず…まあ、あくまで噂なんだけど。
オレ、彼女と同じクラスになったことないし。
たぶん通りすがり程度の関わりじゃないかな。
それでも浅野さんのことを知っているのは、彼女が理事長の娘だから。
この学校でそのことを知らない人間なんていないでしょ。

そんなことを思いながら、もう一度浅野さんを見る。
なんでここにいるのか考えても、こればかりは本人に聞かないと解決しない疑問だと早々に考えるのを止めた。
その代わり、浅野さんを少し観察してみることにした。

そういえば、浅野さんはオレのことを知らない様子だったな。
オレに名前を呼ばれてもパッと名前が返ってこなかったし。

…自分で言うのもあれだけど、結構悪目立ちしてたと思うんだけど。
なんて思っていると、思考を中断するように殺せんせーがオレの名前を呼んだ。
それに返事をしようとした時、小さくカルマくん…と呟く声が聞こえて、意識が再び浅野さんの方に向いた。
どうやらオレの名前に聞き覚えがあったようで、少し考えている様子。

そして、暫く。


「赤羽業くん…?」


何故かフルネームで呼ばれた。
そこを指摘すれば、本人は声に出したつもりはなかったようで恥ずかしそうにはにかんだ。

…あれ、浅野さんって理事長の娘じゃなかったっけ。
理事長とは似つかない表情をされて、一瞬勘違いしてるのかと思った。
いや、確かに娘だよな。
名字浅野だし。

じっと浅野さんを見つめていると、突然目の前が黒く染まった。
不思議に思って見上げてみると顔に×印を描いた殺せんせーが目の前に立っていた。


「遅刻ですよ、カルマ君」


さっき名前を呼ばれた時、返答し損ねたせいか殺せんせーがわざわざオレの目の前までやってきた。
そんな殺せんせーに思いつきで言葉を返す。


「…殺せんせー、オレ学校の敷地内にはいたよ」


「セーフで良くね?」と続けたら「教室にいない時点でアウトです」と返ってきた。
まあ、当然か。
そのまま殺せんせーに「カルマ君、早く席についてください」と背中を押された。


「…はーい」


それに仕方なく返事をして、席に着く。
オレが席に着いたのを確認すると、殺せんせーは一瞬で黒板の前まで戻った。

とりあえず隣に座る浅野さんに笑顔を貼り付けて「よろしく」と挨拶をすれば「よろしくお願いしますね」と嬉しそうに返された。

…思いっきり毒気を抜かれた気がするんだけど。



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CrystalpalacE