やれるところまで。

オレが遅れてやって来たことにより一時中断されていた授業が再開されたのも束の間、すぐに小テストのプリントが配られた。
…そういえば、やるって言ってたなぁと思いながら問題用紙を見る。


(これくらいなら楽勝)


さらさらさらと解答用紙に解答を書き込んでいく。
躓くこともなく最後の問題も難なく解き終えた。
暇だなぁと隣の様子を窺うと、浅野さんも解き終えていた。
今は見直しをしている最中なのか、解答用紙と睨めっこしている。

浅野さんか…。
貼り付けた笑顔で挨拶してみたら純粋な笑顔で返り討ちにされたのは記憶に新しい。
…というか、ついさっきだし。
その笑顔に警戒する気も失せてしまった。

理事長の娘だというのにあそこまで白い笑顔が出せるとは思わなかった。
そんなことを考えていると、浅野さんは解答用紙から目を離した。
どうやら見直しも終わったようだ。


「ねえ、浅野さん」

「…?」


そのタイミングを見計らって名前を呼んでみた。
浅野さんは不思議そうにこちらへ顔を向けた。
何となく声をかけてみただけなので、これといって話題がない。
我ながら行き当たりばったりな行動をしたなと思いつつ、話題を探す。
…あ、そうだ。


「どうしてここに来たの?」


浅野さんを見た時に思った疑問を聞いてみた。
オレみたいに素行不良で落とされたようには見えないし。
そもそも、素行が悪そうにも見えないし。
こんな山の上に来る理由も、わざわざ差別されにくる理由もないと思うんだけど。

そう思って聞いてみた疑問は「殺せんせーに誘われて…」の一言で片づけられた。

誘われたって…。
殺せんせー、国家機密じゃなかったっけ?
どこで会ったの。
そう思って尋ねてみたら、浅野さんは少し困った顔をしながら人差し指を口元に当てた。
テスト中だから静かにしないととジェスチャーのみで伝えてきた浅野さんを見て、思ってた以上に真面目な子だと知る。

それでも気にせず話しかければ、浅野さんは困った顔をしつつも答えてくれた。
押しに弱くて頼まれたら断れない、人が好い性格みたいだ。

あの理事長の娘なのにお人好しって…。
…まあ、親子だからって性格が似てるとは限らないか。
そんなことを思いながらも、質問は止めない。


「あの…赤羽くん…」


困った顔で名字を呼ばれた。
最近名字で呼ばれることがなかったからか、名字だとなんかしっくりこない気がした。
そう思って「気安く下の名前で呼んでよ」と提案してみれば、浅野さんの表情が少し驚いたものに変わった。
それから暫くして、呼んでもいいのかと少し不安気な表情で尋ねてきた。
…本人がいいよって言ってるのになんでそんな不安そうなの。


「いいよ」


「皆呼んでるし」と続ければ少しの間の後、凄く嬉しそうにカルマくんと呼ばれた。
……まさかそこまで嬉しそうに名前を呼ばれるとは思わなかった。
固まってると、私も名前で呼んで欲しいと瞳をきらきらさせた浅野さんが視界に映る。

…これ、計算でやってんの?
そう思って暫く浅野さんを見つめたが、呼んでくれないのかな?と少し寂しそうな表情に変わったのが確認出来ただけだった。

…これで無自覚とか、余計に質が悪い気がする。
そんなことを思いながら「…改めて、よろしく優良ちゃん」と言えば「…!はい、カルマくん」と幸せそうに笑った。


「仲良くなれたのは結構ですが」

「「!!」」


いつの間にか後ろにいた殺せんせーに驚く。
殺せんせーは「今は小テスト中ですよ」と言って、オレと優良ちゃんの頭にポンと触手を乗せた。
優良ちゃんが「ご、ごめんなさい…」と小さく謝る声が聞こえる。
ああ、そういえばそうだったっけ。


「だって、もう終わったし」


「暇だったから」と続ければ「そんな優秀なお二人にはこちらをプレゼントします」と目の前に差し出されたのは数学のプリント。
パッと見、難易度はさっきまでのとは桁が違う…感じ。


「…」

「さあ、頑張ってください」


「あと5分ですよ」と言って、殺せんせーは教壇に戻っていく。
あと5分でこの難易度は絶対おかしいでしょと思いつつ、仕方なく手を付けることにした。

とりあえず、やれるところまで。



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