…何を隠してるんだ?

「……?……くん?」


秀くん?と優良だけが呼ぶ僕の愛称が聞こえてくる。
それに続いて、何か温かいものが頬に触れた。
それを確認しようと触れてみれば、誰かの手だと分かる。

…ああ、優良か。
少し寝惚けている頭を起こしながら、ゆっくり目を開ける。
すると、心配そうにこちらを窺う優良の顔が映った。
そんな優良に手を伸ばし、ゆっくりと抱き寄せれば、大人しく腕の中に納まった。

…久々に優良を感じた気がする。
ぎゅっと抱きしめながらそんなことを思っていると、腕の中に納まっていた優良がもぞもぞと動き出した。
抱きしめる力を緩めてあげると、僕の体から少しだけ起き上がる優良。
僕の顔を心配そうに見つめて、調子が悪いのかと尋ねてきた。
…おそらく、帰宅が早かったことと珍しくソファーで寝ていたことからそう思ったのだろう。
心配してくれているのはとても嬉しいが…。


(そこじゃないだろう…)


僕の顔を見つめる優良の頬に手を添える。


「…他に言うことがあるんじゃないのか?」

「…?」


僕のその問いかけに不思議そうな顔をする優良。
暫くして思い出したようにはっとすると、笑顔で「ただいま、秀くん」と言われた。

……そうだな、確かにそれも言われてないが、そうじゃなくて…。
可愛らしい笑顔を浮かべる優良をもう一度ぎゅっと抱きしめる。


「優良からE組へ行くことも行きたいと思っていたことも聞いてない」

「…!」


優良の耳元でそう告げれば、ぴくりと肩が揺れた。
それを無視して何故E組へ行きたいと思ったのかと続けて問えば、今度は優良の方から僕に抱きついてきた。
無言でむぎゅりと抱きついてくる優良に答えるよう迫れば、抱きついたままふるふると首を横に振った。


「…優良」


可愛らしい仕草に流されそうになるのを耐え、名前を呼ぶ。
こっちを見るように言っても、顔を上げない優良に思案する。

…もしかして、前もって話してくれなかった理由だけでなく、行きたいと思った理由も口止めされているのか?
そう思って「…父さんに口止めされてるのか?」と呟くように問いかければ、僕の胸板に顔を埋めていた優良が漸く顔を上げて僕の方を見た。


「…」

「…」


暫くの沈黙の後、優良は首を横に振った。
そして、言葉を選びながらぽつりと呟いた。


「え…とね、………E組の担任の先生にね、おいでって誘われたの」

「………」


誘われただけで、行ったのか?E組に?
だったら…。


「…A組に戻っておいでと言ったら、戻ってくるのか?」

「!!」


僕の切り返しにびっくりする優良。
そもそも、その程度の理由で優良が僕に話すことを躊躇うとは思えない。
顔を上げた優良が再び顔を埋める前に、両手を頬に添えて阻止する。
目を合わせるように見つめれば、目に見えて慌てだした。


(…やっぱり、何か隠してるな)


ただ、何を隠しているかが分からない。
だから、こればかりは優良から聞き出さないと駄目だろう。


「優良」


さて、どうやって聞き出そうか。
手段を選ばなければいくらでもあるが、優良相手だと限られてくる。
出来れば嫌がることはしたくない。


「…何を隠してるんだ?」

「…!!」


僕の問いかけに優良は驚いた後、隠してないとでも言うように首を横に振った。
…そうか、なら。
「これでも言わないか?」と囁きながら、優良の脇腹をくすぐった。

さあ、何を隠している?



*

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