ど、どうしよう…!

お家に帰ると、秀くんがソファーで眠っていた。
調子が悪いのかと思って、秀くんと呼んでみたら起こしてしまったようで。
抱き寄せられるまま、秀くんの腕の中に納まった。
そしたら、何故E組へ行きたいと思ったのかという話になってしまい、その質問から逃れるように秀くんに抱きついた。

ど、どうしよう…。
深く追求されるとは思わなかったから、何も考えてない…!
目を合わせたらダメな気がして、むぎゅりと抱きつきながら首を横に振った。

すると「…父さんに口止めされてるのか?」と少しだけ寂しそうな声で呟かれた。
その声に思わず顔を上げてしまう。
あ…、目が合っちゃった…。
ゆらりと揺れる瞳が、少し寂しそうで。

…違うの、あのね。
殺せんせーにね、E組の生徒達なら私とも普通に仲良くなれるって言われたの。
地球を滅ぼす超生物が担任の先生なのだから、理事長先生の娘くらい問題ないって。
それでね、行ってみたら、本当に普通に仲良くなれたの。
話しかけてもらって、いっぱいお話して、仲良くなって。
今まで、そういったことをあまりしたことがなかったから、とても嬉しくて。
でも、殺せんせーのことは誰にも…例え兄弟でも絶対に言わないでくれって烏間先生にお願いされてるから…。


(…言えないの)


秀くんの呟きに首を横に振って否定する。
詳しくは話せないから曖昧に答えたら「…A組に戻っておいでと言ったら、戻ってくるのか?」と聞かれてしまった。
状況を悪化させてしまったことに気づき、目を逸らすために再び顔を埋めようとしたら頬に両手を添えられて阻止されてしまった。
真剣な眼差しを向けられて、慌てることしかできない。


(ど、どうしよう…!)


お父様がいない今、助けてくれる人はいなくて。


「…何を隠してるんだ?」

「…!!」


まるで心の中を見透かされたような、鋭い問いかけに思わずびっくりしてしまう。
それを隠すように慌てて否定したら脇腹をくすぐられた。


「ひゃっ…!」


や、やめて…!!
くすぐりが弱いことを知っててくすぐってくる秀くんにやめてやめてと訴えると、隠してることを言うならやめると言われてしまった。
ど、どうしよう…!!


「やぁ…!」


くすぐりから逃れようと秀くんの胸板を押そうとしたけど、ち、力が入らない…!
殺せんせーのことを言うわけにもいかず、でも、秀くんから離れることも出来なくて。


「だ、だめぇ…」


必死でやめてと訴えて、漸くやめてもらえた。
ふぇ…、ち、ちからが、ぬけちゃった…。
やっとくすぐりから解放されたことに安堵して、へにゃりとしていると「…わかった、もう聞かない」と言われた。
よ、よかった…。
なんとか、秀くんからの追及を逃れることができて、ほっとした。

その後は、普通に夕ご飯を食べて、お風呂に入って、自分のお部屋でのんびりした。
お気に入りのうさぎのぬいぐるみに抱きつきながら、今日の出来事を思い浮かべる。

ご近所さんの志貴くん以外に優良ちゃんと呼んでくれるお友達が出来て。
それから、素敵な授業をしてくれる先生と出会って、…突然キスされた時はびっくりしたけれど。
放課後にお友達とケーキの美味しいカフェにも寄ったりして。
新しいことばかりで、とても楽しい1日だった。

思わず笑みがこぼれる。
明日はどんな1日になるのかなとわくわくしてしまう。

ランプの光ってるスマホが視界の端に映り、確認してみれば一通のメールが来ていた。
タイトルには"殺せんせーです。"と書かれている。


(あ、あれ…?どうして私のメールのアドレスを知っているのでしょうか?)


不思議に思いながらもメールを開けば"クラスに馴染めて良かったです。"という文章から始まり"とても良いクラスでしょう?"で終わっていた。

殺せんせーの気遣いに顔がほころぶ。
メールに返事をしてからベッドへとダイブした。
うさぎのぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめながら幸せに浸っていると、秀くんの寂しそうな表情が過った。

秀くんの追及から逃れた後、リビングに置いたままだった自分のスマホを確認したら、たくさんの通知がきていてびっくりした。
そのどれもが秀くんからのもので、私が思っている以上に秀くんに心配をかけてしまっていたことを知った。

それに申し訳ない気持ちと、寂しさを感じる。
今まで、隠し事らしい隠し事なんてしたことがなかったから。
この嬉しい気持ちを一緒に共有できないことが、とても寂しい。
そんなことをぼんやり思いながら時計を見ると、もうすぐ就寝時間。


(…)


お気に入りのうさぎのぬいぐるみを持って、自分のお部屋をあとにした。

一人で眠るのは、少し寂しいから…。



*

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