いつも通りだった

浅野君の気を逸らしている間に王女様を席へと誘うことに成功した中村さん達は、楽しそうに英語で会話をしていた。
それを聞きながら、視線は不機嫌そうに立ったままの浅野君へと向ける。
一向に座る気配のない浅野君に磯貝君が「座ったらどうだ?」と声をかけたんだけど、きっぱりと断っていた。
そんな浅野君に、優良ちゃんが話しかける。


「秀くん、これ、とてもおいしい」


磯貝君におすすめされたアップルパイを口に含んで優良ちゃんが幸せそうに報告する。
それに良かったなと返す浅野君は、やっぱり少し不機嫌だ。

…まあ、王女様のエスコート中に思いっきり乱入した上に、浅野君からの小言を回避するために持ち出した話題が最終的にとんでもない所へ着地してしまったことを考えると仕方がないんだけど。
頑張って優良ちゃんが返答してくれていたけど、あれでは曖昧に誤魔化したようにしか聞こえなかったし…。

そんなことを考えていると、「秀くん、」と再び優良ちゃんの声がする。
声の方へ視線を戻すと、優良ちゃんが浅野君にフォークを向けていた。
そこには一口サイズのアップルパイが乗っている。
それを見て浅野君は、今はエスコート中だからとやんわり断っていた。

人目も気にせずイチャついてるイメージしかなかったから、少し意外だった。
成り行きを見守っていると、優良ちゃんが大人しくフォークをおろした。
…少しだけしょんぼりしてる。


「…」


それを見かねたのか、浅野君が少しの沈黙の後「…食べる」と返して、優良ちゃんの手を掴む。
少しだけ屈んで、そのままフォークを自分の口へと運んだ。


「…ああ、おいしいな」


浅野君の行動に優良ちゃんは一瞬だけ目を丸くしていたけれど、すぐに嬉しそうに笑った。
…やっぱり、いつも通りだった。
内心で苦笑いしながら、ひとまず浅野君の機嫌が良くなったので安心する。


『あの二人は恋人か何かかしら?』


それを見ていたのは僕だけではなかったみたいで、目をぱちくりさせながら王女様が尋ねてきた。
王女様の尋ねる二人とは、ごく自然にイチャつく優良ちゃん達であることは明確で、それに中村さんが『ただの双子』と呆れたように返した。
『いつもあんな感じだから、ほっといて平気』と続ける中村さんに苦笑いが漏れた。



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