廊下

律に見送られながら、女子トイレを後にした。
西洋の古城のような建築様式に戸惑いながらも、廊下を進む。
律が何も言わずにこちらへ見送ったので、道としては間違っていないのだろうけど…。


「…寮ってどこにあるんでしょう?」


少し彷徨ってから、優良ちゃんがぽつりと呟いた。
これだけ広い建物なら案内図くらいあるんじゃないかと思ってたんだけど、どうやら無いみたいだ。
それどころか、誰とも会わない。


(…どれだけ広い建物なんだろう)


歩みを止めて考える。
見知らぬ建物に見慣れない服装、途中で途切れた記憶。
そして、律が幽霊として存在していて、僕達の名前を呼んでいたこと。

ここが夢の世界ではないのなら、僕達のいた世界とは別に存在している世界なのかもしれない。
そうだとすると、僕達はこの世界に存在する僕達と入れ替わってしまったのではないだろうか。

そんな結論に至っていると、聞き覚えのある声が優良ちゃんの名前を呼んだ。
声の方へ顔を向ければ、思った通り、片岡さんの姿が。


(どうしてここに…!)


片岡さんは僕達の所まで駆けてくると、優良ちゃんの肩をがしりと掴んで捲し立てるように話し出した。


「良かった、優良ちゃん!律に用事があるからって談話室を出て行ったきり、なかなか戻って来ないから、てっきり浅野君にでも捕まってるんじゃないかと思って探してたんだよ」

「か、片岡さん、優良ちゃん吃驚してるよ…」


咄嗟に名前を呼んでしまったが、間違っていなかったみたいで「渚も一緒だったんだね」と付け足すように言葉が返ってきた。

片岡さんの言葉が、さっきの結論を裏付けているように聞こえた。
片岡さんも律もこの世界の住人で、そして、僕や優良ちゃんもこの世界に存在していて。
服装が律や片岡さんが着ているものと同じみたいだから、意識だけが入れ替わってしまったのかもしれない。

そんなことを思っていると片岡さんに「談話室に戻るよ」と声をかけられた。


「…、な、何この階段…」

「?何言ってんの、渚」


「ただの動く階段じゃない」と言う片岡さんに「ただの階段は普通動かないよ…!」とツッコみそうになった。
あったとしても、普通はエスカレーターみたいな動き方じゃないの…?
そんなことを思っていると「優良ちゃん!渚!」と再び聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。


「磯貝君…!」


片岡さんの時と同じように、思わず名前を呼んでしまったけど「浅野兄に捕まって困ってるのかと思って探してたんだ」と言葉が返ってきたので、この世界の磯貝君も磯貝君みたいだ。


「まあ、渚と一緒なら大丈夫だったかもしれないけど」


そう続ける磯貝君に、なんて返したら良いんだろう。
さっきから出てくる"浅野"という人物が優良ちゃんのお兄さんのことを指しているのなら、とてもじゃないけど僕にどうこうできる気がしないんだけど…。

とりあえず苦笑いを返しながら、優良ちゃんと一緒に片岡さんと磯貝君の後についていった。
右も左も分からない世界で、僕達の知ってる人達が、僕達の知っている彼らとあまり変わらない性格をしていることに少しだけ安心した。


「またやってるのか…」



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