「そういえば、この邪見、実はもう一つ噂がありまして…」

川に沈みつつある僕が、先ほどの犬夜叉の件より少し言いづらそうにしながら口にしたのは又もや噂話だった。

「…まだ何かあるのか」
「その…不思議な力を持った巫女がいるとか言う噂でして、」
「人間の事なんぞ興味はない」
「それがですね、何でもその力と言うのが…傷や病を自由に治すらしくて」

その言葉にあの女の顔が記憶を過る。まさか、と思ったが奴もまた死んだはずだ。確かに少し引っかかってはいたが墓もあるのをこの目で見ている。第一もしあの時死んでいなかったとしてもあれから50年、どちらにしろもう生きてはいないに違いないだろう。

「…人とはすぐ死ぬ生き物だ。奴ではない」
「そうですよね!其れに奴は50年前に死んだはずでしたしね…っ!」

特別何かをした訳でもなかったが不意に脳裏に浮かんでくるあの人間の女。それだけの筈なのだが靄がかかったように浮かぶあの顔に思わず眉間に皺が寄るのを感じた。



***



「せっ殺生丸さまっ…」

落ちて行く途中遠くで邪見が私の名を呼んでいるのが聞こえたような気がした。耳障りなあの愚弟の声もする。腕を持っていかれた事も、父の牙の剣・鉄砕牙が抜けなかった事も選ばれたのが奴だった事も全てが納得行かず、ただただ腹立たししかった。だがどうやら傷は想像以上に酷いらしく今は抵抗も出来ずそのまま落下していくのに身を任せる他なかなかった。
流れに身を任せ落ちた先は元の世界の鬱蒼とした森の中。

「…っ、」

上がっていく呼吸と共に傷口から血が流れ続ける。流石に鉄砕牙でやられたのだ仕方が無いかと情緒的な笑みがこぼれる。しばらくすると背後から草を掻き分ける音がした。邪見か、と思いそのままにしていたが何も声がせず徐々に大きくなる音を不思議に思い振り返ればそこに居たのは思いも寄らぬ姿だった。

「貴方は…!」
「!!」

何度も頭に浮かんでは消えていたあの頃とまったく変わらない姿のまま、あの女がそこに立っていた。




 


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