あれから50年ばかりの年月が流れたが私はやはり一向に年をとらないまま、あの時のあの日のまま、本当に時間が止まったかの様に姿形が変わらなかった。
そのため不信がられないよう数年単位で村から村へ旅をしつつこの体質を治す手段を探していたそんな矢先、昔巫女に封印された半妖の封印が解かれた、と言う噂を耳にしたのだ。
それを聞いてまさか桔梗に封印された犬夜叉の事かとも思ったがあの封印は早々簡単には解けないものだ。

「…まさか、」

偶然同じ様なやつがいたんだ、そう思ったがやはりこのままでは埒が明かないし、こうも気になっていては普段の勤めにも支障が出かねないと思い、決心を固め明日村に行ってみようと計画を立て私は今日もまた進まない一日を過ごすのだった。



***



「そんな…っ」

森に着いたのはもう夜も更けた頃だった。暗い森の中慣れた足取りで着いた場所で見たものは、そこにいるはずの犬夜叉の姿はなく封印されていたであろう痕跡だけを残して姿を消していた。
目の前のその事実に私の中で眠っていたであろう敵意が少しずつだが顔を出そうとしている。50年前のあの時私に向けられた物は確かに明確な殺意だった。

「…犬夜叉」

何故、とつい考え込んでいたのがいけなかったんだろうか、背後から草をかき分け凄い勢いでこちらに向かってくる気配に気付いたのはまさにその物の腕が振り下ろされる瞬間だった。

「…ッ!!」
「ほー、やっぱり旨そうだなぁ…巫女さんよォ」

振り返るとそこには少しばかり小柄ながらも、確かな妖気を放っている鬼が。瞬時に合間を取るため後退ったがそんな私の様子を見ても鬼は不敵な笑みを絶やしはしなかった。

「何が可笑しい…」
「いやぁな…いくら巫女さんだからってこんな夜更けに1人でこの森にはいるたァ、いい度胸だと思ってな」
「…私に勝てる自信があるようですね…」
「まぁ、四魂のかけらで力が増してる今の俺様が負けるはずねぇってことよ」

勝てない相手でもない。だがここは村の近くだ、なるべく穏便に済ませ誰にも気付かれぬ内にこの場から去りたかった。そう思いどうするかと考えているとどうやら彼方から仕掛けて来るようで鬼はだらしなく口から涎を垂らしつつこちらを見ていた。

「俺ァ本当にツイてるぜ…たまたま四魂のかけらを拾ったかと思えばこんなところで思わぬ上玉に出くわすんだからよ…しかもそれが巫女ときた」
「っ、…」
「これが喰わずにいられるかよッ!!」

と言うや否や先ほど振り下ろした腕と同じ方へと飛びかかってくる。

「こっちの腕はもらったぜ…!」
「……甘いわ」
「なっ!何で腕の傷が!!」

治って、と言う間も与えずに私は手に持っていた破魔の弓を振り下ろすと呆気なく鬼は散っていく。

「徐々に化け物時見てきたな…」

年月を経るにつれて人魚の肉は身体に馴染んで来たのか、今では重傷の傷で無いならば短い時間で治ってしまうようになった事を改めて実感し乾いた笑みを浮かべる私は骨になる鬼の身体から出て来た謎のかけらに自身の目を疑った。そのかけらが放っている光は紛うことなき四魂の光だ。

「噂は本当だったのか…」

あの噂には続きがあり、どうもあの四魂の玉も何故か復活した上にそれが絡んでいるらしいと言うものだ。あの時の桔梗が葬ったはずの四魂の玉はあろうことかバラバラになり各地に散らばったと聞き、信じがたい噂だったが目の前に突き付けられた真実に信じる他なかった。

「一体何が起こっているの…」

少しの嫌な予感と期待が入り混じり、何が動き始めているのを私はこの時身を持って感じた。


 


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