彼女の白い腕に赤々としたそれはえも言われぬ雰囲気をかもしだす。地面へと向かう流れは既に止まっており、それはまるで女が常人の域を超えている事を語っているかのようだった。

「…人魚の肉を食べたの」

そう言った女はこれまでの経緯を話し始めた。人魚の肉の力は知っていた、妖怪の中にも不死になろうとするものや莫大な力を手に入れようと探している輩が居る事も。
だが人であれ妖であれ実際に食ってその力を手に入れた者を見たのは初めてだった。話事態に興味はなかったが実際に不死の力を手にしたと言う事には少なからず興味が湧いてきていたが、まだ一つ疑問も残っていた。

「私は元に戻りたい。…普通の人間と同じように年を重ねていけるように」
「…貴様の様な者には手に余る力と言うことか」
「そうですよ。だからその方法を探る為に旅をし、その最中貴方と再開した。そしてあわよくば何か知らないかと思って助けた、それだけ」
「……」
「…ですけど何も知らないようなので私は邪魔にならない内に消えますね」

話を聞いても何故かまだ理由が分からない、ただそう思った。
目の前に座る女が私の傷を治すのも、自分に利益が無いのに尽くしてくる訳も何もかも。人間は下等な生き物だと思いつつもこの女は何かが違う、そんな矛盾が密かにうまれた。

「こんな時も貴方は寡黙なまま?」
「…」
「‥流石の貴方も少しぐらい何か慰めの言葉をくれるかとも思ったけど、お門違いの様ね」
「…この殺生丸がなぜ人間ごときをあやす言葉を吐かなければならないんだ」
「それもそうか」

笑ながらそう言って女は立ち上がる。何処かぎこちないその表情は違和感しかない。そのまま此方には見向きもせずに始め出てきた方へと歩を進める後ろ姿を見ていると何故か、引きとめなければと思った。

「待て」
「…?」
「貴様の言うとおり人魚の事は知らぬ」
「そう」
「だが…貴様に良く似た女を見た。妙な着物を着た女だ」

その台詞に女はやっと此方へ振り返る、普段の冷静な様子からは想像しにくい驚きと困惑の混じる不思議な表情をして。

「それってどう言う…」
「もう少し回復したらここを立つ、それからまたその女と一緒に居るところへ向かう」
「…ついて来い、って事?」
「知りたいのならな」

側に置いておけば、近くに居ればこの胸のつっかえが一体何なのかが分かるのかもしれないそう思い遠回しに引き止めるような言葉を紬出せば、案外簡単に女は引っかかった。

「…私を連れて行って、殺生丸」

強い意志を感じるその視線に畏怖とはまた違う何かを感じ背筋がぞくりとする。悪くない、そう思えば自分の口角が少しだけ上がった様な気がした。


 


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