その日は何時もより早く起きたつもりだったが寝床には桔梗の姿はなくそれを不思議には思ったものの今日は犬夜叉と約束があったため特に気にも留めず、寝ていた楓を起こさぬようそっと家を後にした。

「少し早く来すぎたかな」

まだ辺りは薄暗く日は顔を出しかけている途中だ。こんな時間に一体何の用だと思ったものの約束を破る理由もなかったため私は大人しくその場所で待っていた。ここのところずっと胸につっかえている嫌な予感は今日、今までで一番大きい気がしておりそのざわつきに表には出さないものの、戸惑いを感じた。

「っ…!!!」

正にその時。胸のざわつきに気を取られていたその短な隙をつくかの様に胸に強烈な痛みが走った。あまりにも一瞬の事で何が起こったか理解できずにいると後ろから聞きなれた笑い声が聞こえた。

「お前ぇが一瞬でも何かに気を取られるなんて珍しいことがあんだな…」
「い、犬夜叉…!」

そこには手を血に染め上から笑みを浮かべこちらを眺めている犬夜叉の姿があった。どうやら心臓を一突きにされたらしい、鋭い痛みと体から血液が抜けて行くの感じて私は少し後退る。

「逃げようとしてんのか?…無駄だぜ、その傷じゃあな。村に着く前にどうやったってお陀仏だ」
「っ、犬夜叉、…なぜっ!」
「あ?そんなの四魂の玉を手に入れる為に決まってんだろ。…桔梗も面倒だがまずはお前、菖蒲からだ」

さも当たり前だと言わんばかりの態度をとる犬夜叉にせめて一矢報いようと思ったが血を流し過ぎたらしく目の前がかすみもう立っていることすら辛くついに地面に膝をついてしまった。するとその瞬間頭をいきなり踏みつけらる。

「いっ…!!!!」
「けっ!いい気味だぜ!お前の癒しの能力は面倒くせぇからな。やっぱり先に殺しておいて正解だな」

ぐりぐりと地面に擦り付けられる痛みすらもう感じず上で何かを喋っているであろう犬夜叉の声をもうよく聞き取れなかった。
私は胸に強烈な怒りと憎しみ、そして妹や村の者にも対する申し訳なさを感じながら意識を手放した。

「…あ?菖蒲?……死んだか」

返事もせず動かなくなった菖蒲の腹に一蹴り入れ彼はその場から何の迷いもなく立ち去って行った。

「次は桔梗だな…これで四魂の玉が手に入る」





***





私が再び目を覚ましたのはどうやら丸一日たった後らしかった。あれ程酷く受けた傷はまるでその事自体が無かったかの様にきれいさっぱり跡形もなかった。

「人魚に助けられたか…皮肉だな」

私はすっかり変わってしまった自身の体質に苦笑いしながら今の状況を掴む為村へと向かった。あの時の犬夜叉の言葉からすればきっと桔梗も何かしらの攻撃を受けるに違いない、あの強い妹が簡単にやられるはずはないと分かっているがどうしても何か胸騒ぎがしており私は出来うる限り足早に歩を進めた。

「一体、なにが…」

そこはまさに地獄絵図だった。民家はほとんどが半壊し、何もかもが荒れ果てているまだ道端に座り込む者や途方にくれているもの様々だ。何があったのか尋ねようとした次の瞬間私の耳には信じがたい言葉が入ってくる。

「…菖蒲様だけに止まらず桔梗様まで死んでしまうとは…」

「もうこの村はおしまいじゃ…」

体が固まる。私が死に、しかも桔梗まで死んだ?衝撃的過ぎるその言葉にその場から動けなかった。その事実に茫然としていると何故か村人は社がある方へと皆向かって行った。まるで列をなすように生き残った者が向かっているので私は回り道をし、誰にも気付かれぬ様に社へと向かった。
そこで目にしたものはこの争いの発端であろう四魂の玉を胸に抱き真っ赤に燃える炎に包まれた桔梗の姿が。思わず呼びそうになった名前をぐっとこらえ、それをただただ見つめた。

「お姉様っ…お姉様ぁ!!」

楓や村人のすすり泣く声に耐え切れず私はその場を後にした。
こんな事をした犯人は分かっている。殺してやる、絶対に。そう思い無我夢中で足を進めていれば何故か御神木の前へとたどり着く。そこでふと頭を上げるとその光景に私はまた衝撃を受けた。

「なっ…!犬夜叉っ!!」

慌てて駆け寄ってみればどうやら彼はこの木に封印されているようだった。胸に刺さっているのは桔梗の矢。どうしてとどめを刺さなかったのかと戸惑うもののきっと桔梗なりに何かの考えがあったのだと考えた。

「……き、きょう…」

私はその場に座り込み何時ぶりだろうかと言う頬に伝う何かをただそのままに桔梗を想った。





***




どれ位時が経ったのだろうか、私は随分とその場にいたらしい。辺りはすっかり薄暗くなっていた。両の頬をぱしんと手で叩き気を引きしめる。確かに悲しいことがあり過ぎた。あの楽しかった日々が続くと信じていたがそれは一瞬のうちに消えてなくなってしまった。
だがいつまでもこのままでいる訳にも行かないだろう私は決意を新たに立ち上がった。

「さよなら、楓……桔梗」


 


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