「殺生丸さま小耳に挟んだのですが…」

そう言う邪見の口から聞こえたのは何時ぞやに自身でも聞いた話だった。

「…知っている」
「さ、流石殺生丸さま…!あの犬夜叉と言えども一応は兄弟、封印されたとなれば知ってますよね」
「……」
「そう言えばあの巫女もどうやら死んだようですな…ケケケやはり人間…」
「…邪見」
「あ!はい!すみません…!!」

犬夜叉の事は知っていたがあの巫女の事は初耳だ。たかが人間なはずなのだが、なぜか引っかかっている。

「え、せ、殺生丸さま?!置いて行かないで下さいませ〜!!」

このままでは何か落ち着かずその場から飛び立つ。ざわざわとする胸のあたりの謎の違和感に苛立ちをつのらせながら足は自然とあの村の方へと向かっていた。



***



その日は何時もと変わらない日だったが、ふと鼻に付いた血の匂い、それと聞いたことのある声。頭に浮かんだ人の巫女の姿、関係ないとは思ったがどうやら近くなようでこの前の一件もあると思い、その微かに匂いのする方へと向かう。
その場に着いた時まさにあの巫女は殺されそうになっていた。巫女が殺されようとそれ自体は関係ないが、自分が先に目を付けた物を他人に好き勝手にされるのは気に食わない、そう思うが早いか巫女に襲いかかろうとしていた男に腕を振り落とした。

「…何があった」

巫女はひどく驚いた顔をし私の名前を呟いた後、糸が切れたようにその場に倒れこんだ。死んだのかと思い近付いてみたがどうやら気を失っているだけらしく、息は微かだがある。

「……」

もう虫の息だ、長くはないだろうと思いその場を離れようと踵を返したがどうにも倒れる寸前に巫女が浮かべたあの顔が頭から離れなかった。
すっと腕に抱えるとだいぶ血を流したのか少し冷たい。

「…脆いな」

強い霊力を持ち並み居る妖怪を倒している巫女も所詮ただの人間か、そう思いながら夜の空へと飛んだ。



***



村の上の方にあの巫女の物らしき墓があった。だがそこからはただの墓土、そして奴と同じような匂いはしたがあの女自体はここに埋まってはいないようだった。

「…変な奴だ」

ただ死体がないのかまだ本当は生きているのかは知れない、あの顔が時折頭に浮かぶ。

「……菖蒲」

あの時聞いた名前を呟くとそれは以外にもすっと沁みる。胸の突っかかりは取れないままだ。

 


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