重ねて、握っては離す。それを何度も何度も繰り返す、すっかり大きくなってしまった彼の手は数回それを繰り返した時に初めて反応示した。不意に手を握り返した彼の行動に私は一瞬固まる。

「さっきから何をしているんだ…」

イタチは目線こそ手元の書物に向いているが頬を指でかき少し気不味そうにそう言った。何だ、少しは気になっていたのかと口元に笑みが浮かぶ。

「いや…特に意味はない、けど」
「……ならやめてくれないか。今は集中したいんだ」
「へー…私に手を握られてるぐらいででイタチの集中は切れるんだ」
「カズラ、お前な…」

困った様に眉を下げた漆黒の瞳と目線が合う。あの写輪眼の赤い瞳も十分すぎるぐらい魅力的ではあるが私はどちらかと言えば、この目が好きだった。

「分かってるって。…でもあと少しだけ、そしたら直ぐ離すから」
「……」

観念したのかイタチは私から視線を外した。そんな一挙一動までもが美しくて、彼の隣に居るというこの現実が私の心をひどく満たす、ごつごつとした彼の手は私の手を握り返したままだった。

「…イタチ、手冷たいね」
「カズラは相変わらずの子供体温だな」
「………。」
「…怒るなよ」
「おこってない」

私の返答にイタチは薄く笑みを浮かべた。これがつかの間の幸せだと理解しているからきっとこんなに幸せを感じるのだろう、冷たい手を暖めるようにぎゅっと握る。少しだけ空いていた距離を詰め完全にくっ付きゆっくりと肩に頭を乗せた。

「……イタチ?」

てっきり何か言われると思っていたが予想は外れ、イタチは無言だった。自分からやった事なのだが、それを不思議に思い名前を呼べば返事の代わりにパタンと本の閉じる音がした。流石に怒らせてしまったかと焦りどうしようと思案していた私に不意に影が落ちる、そしてふわりと香るイタチの匂いと唇に思いも寄らぬ感触。

「…今はこれで我慢してくれ」
「い、イタチ…?」
「もうすぐ読み終わる」

まるで何もなかったかのように読書を再開するイタチのそんな姿に私は固まった後にかぁっと頬が熱くなった。いま、いったい、なにを、と思考回路が上手く回らない。どうする事も出来ない私は思わず勢い良く立ち上がった。それが予想外だったのだろう、イタチは不思議そうに私の名前を呼んだ。

「……カズラ?」
「…ッ、…」
「…?」
「の、…飲み物!飲み物持ってる…!」

そう言い残すや否や引き止める暇もなく足早に部屋から出て行く後ろ姿をイタチは眺める他なかった。バタン!と勢い良く扉が閉まるのを確認してイタチは顔を手で覆う。

「…、はぁ」

重苦しいため息をわざとらしくついたイタチは顔は覆われた手のひらで見えなかったものの、長い黒髪の間から覗く耳はうすく赤く染まっていた。

 


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