別に泣きたい訳ではなかったが何故か涙が止まらなかった。
次から次へと瞳から落ちる雫にイタチは少しうろたえた後、優しい声音で大丈夫かと心配してくてた。嬉しかった。でも涙は止まらなかった。
「っ、イタチ…」
「どうした?」
椅子に座る私を下から覗き込む様にしながら何時もの柔らかい笑みを浮かべているイタチに少しだけ心が落ち着く気がする。けれど、ゆっくりと私の様子をうかがいながら涙を拭うイタチの指があまりにも優しくてやっぱり涙が溢れた。
「…カズラ」
「ご、ごめ…っ」
「謝るな…落ち着くまで側に居るから安心しろ」
隣に座ったイタチと触れ合っている部分からまるで優しさが染み込んでくる様だった。だいぶ時間が経った頃やっと私の涙が止まった。イタチは文句一つ言わずただ隣に居てくれた。
「落ち着いたか…?」
「……うん」
私のその言葉にイタチはよかったと笑った。きゅっと重なっていた手が握られ、目尻にイタチの唇が触れる。
「このまま泣き止まなかったらどうしようかと思った」
「うん…ありがとう、イタチ」
上手く笑えたか分からなかったがイタチも笑ってくれたので大丈夫だったのだろう。徐々に距離が縮まり、包み込む様に抱き締められる。少し速い規則正しい心音に耳を傾ける、心地よいリズムが鼓膜を震わせた。
「イタチ」
名前を呼べばやはり笑顔で答えてくれる。彼みたいな優しい人は可哀想だと思った。私みたいな汚い奴に縋られ、縋られ、きっといつか耐え切れなくなってしまうだろう。そう思うと胸が痛んだがそれでも私は彼に縋らずにはいられなかった。
「…イタチ」
「あぁ」
きっと今想像もつかない大きなものを彼はたった1人で抱えている。話してはくれなかったが薄々勘付いてはいた。分かった上でイタチを助ける訳でもなくただ今まで通りその優しさに甘える私時しには嫌気がさした。
「…ごめんね」
「……、カズラ」
あやすようにテンポ良く背中を摩らる。こんな私をイタチは何時も好きだと言ってくれていた。その度に私の心臓はきゅうっと締め付けられる様になる。腹の底から湧き出て来るようなこの感情は私にはまだ理解出来ない。
「…イタチ、」
胸元から顔を上げ両手で頬に触れると、綺麗な黒い瞳に泣き腫らした私の姿が写っいる。瞼を下ろしどちらかともなく距離を縮めた。触れ合う唇がやたら熱い気がする。ゆっくりと顔を離せば熱に浮かされた様な表情のイタチがそこにいた。
欲を孕んだその視線に心臓を掴まれた様な感覚に落ちる。ゆっくりと首に腕を回せばそれに応える様に腰の腕に力が入った。
「…すきだよ」
まるで呪いのようにイタチを縛り付けるその言葉を、何度も何度も私は呟く。
優しい人は本当に、可哀想だ。
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