*St. Valentine’s Day


イタチの部屋の中には2人だけで、その少し広めの空間に響く生々しい水音に背筋を何がゾクゾクと通り抜ける。本当に甘ったるくて長い口づけに酸欠だろうか徐々に頭がぼうっとし始めた矢先やっと解放された。

「っは、ぁ…」
「…っ…大丈夫か?」
「……イタチが、それいう…?」

苦笑いをする私を少し申し訳なさそうに、でも確かな欲を含んだ視線が射抜く。息を整える私の額や頬にやたらとキスを落とすイタチはまるで機嫌をうかがっている様で、そんな彼が言いたい事を何と無くだが感じ取る。

「……カズラ?」
「…はい」

箱から一つ不恰好なチョコレートを取り出しイタチの口に押し付けると予想外だと言わんばかりに目が開かれるも、何だかイタチが白々しいのでぐいっとさらに押し付けた。

「もう一回、やりたいんでしょ」
「………」
「…目は口程に物を言うって良く言ったもんだよね」

イタチは少し考える素振りを見せてからぱくりとチョコレートを食べるだけでなく、おまけにココアのついた指まで舐めていった。そんな事をされるとは思っていなくてびくりと肩を揺らした私に少し頬の膨らんだイタチの顔が近付く。

「いいのか…?」
「…やる気満々のくせに」

そう言いながら思い切ってイタチの首に腕を回し自分からキスをすれば間も無く応えるように舌で唇をノックされた。やれやれと思いつつ口を開けば甘いチョコレートと共に舌が入ってくる。我ながら今回のは美味しく出来た何て考えも直ぐに何処かへ消えていく。
無駄に上手いそのキスにはいく度となく骨抜きにされてきた。口内のチョコレートが完璧に溶け切った後も舌を絡ませ貪る様に続いたそれからはイタチが存分に堪能した頃にやっと終わりを告げた。互いに息を整え自然と無言で見つめ合う。

「…、クセになりそうだ」

不意にそう呟いたイタチの瞳に垣間見える男っぽい視線に体がじゅんと疼く。その上、ぎゅっと抱きしめられるので心臓が張り裂けそうになっていた。それを知ってか知らずが色任務をこなすくノ一顔負けの色香を放ちながらそっと耳元で吐息混じりにイタチ囁く。

「勿論お返しは飴でいいんだろう?」

ただでさえ腰が砕けそうだと言うのにそんな事を言うイタチに私はくらくらとめまいがした。かっこよ過ぎるのも罪だと思った今年のバレンタインである。


 


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