見ゆれば逢ひぬ

「おはよう、カナちゃん……って大変!目の下にクマが!」

 ワカメくん襲撃の翌日、つまり旧校舎探索の翌日。
 いつも通り登校すると私のナイスキューティーな友人が机にうつ伏せになっていた。カナちゃんを心配して話しかけると、憂鬱そうに顔を上げた彼女の目の下にはくっきりクマが現れている。

「昨日怖くて眠れなかったからだと思う。旧校舎で何かあったはずなんだけど…」

大きなあくびを一つ、手で覆って隠すカナちゃん。

「とりあえずあとで蒸しタオル用意してあげるね…よしよし。夜も眠れなかったなんて世界一可哀想すぎる…」

頭を撫でれば、ん、と眠そうな声を出してまた気持ちよさそうに瞼を閉じようとする。

(ふっ…!っくぅ、かわ、いすぎて死ぬ……)

言葉通り萌え死にしそうで口を押さえ震える。

「おはよう…って、二人ともどうしたの?!」
「しー。カナちゃんが寝てるんだからお静かに」

唇に人差し指を当てて孫を制止する。孫は小さな声で謝った。
孫は昨日と変わりない姿でケロッとしている。その姿に理不尽にも怒りが湧いてくるのは、私のカナちゃんへの想いが強いからということにしておく。

「奴良…くん、昨日なにがあったの?」
「特になにも…なかった……よ」

 目をそらしてしりすぼみに答える孫。
 昨日孫やカナちゃんの未来を見た時点では「命の危険がないならいいか」なんて思ったけど、そんなことはなかった。私は妖怪とか怖いことは平気だけど普通の人は慣れてないんだよね。
カナちゃんにとって妖怪と過ごすはめになった夜がどれだけ怖かったことか……!
今度からは絶対について行ことにしよう。これ以上私の大切な大切なカナちゃんを怖い目に合わすわけにはいかない。
ぐっと拳を握りして天に向ける。神に誓いを立てる私に孫は「なにしてるの?」と呆けた質問をするのだった。

___

「うーん、ないなぁ」
本堂から少し離れたところにある埃の溜まった物置を物を探しながら、あれでもないこれでもないと散らかす。学校が終わってすぐ自転車をかっ飛ばして、久しぶりに平日に神社に来た。家の方にはよく帰るけど、こっちはバイトさんに任せきりなんだよね。

「あった!陰陽師ん家にいた頃作ったお守りがわりのストラップ」

6歳の頃に一年くらいかけて作った女の子の形のお人形。“力を籠めて”作ったおかげかそれまで旧友のように話しかけてきた悪霊が姿も現さなくなった。
懐かしいなーあの家。名前忘れたけど。女の子がいっぱいいたし、お菓子美味しかったし。
ていうのは置いといて、ともかくこのお守りがあればカナちゃんも安全だ。糸がほつれてたり目のつもりのボタンが取れたりしててちょっと怖いけどそれは縫い直せば問題ナッシング。
やった物置から出たと思えばもう外は暗くて夕方5時には電気が一切なくなる境内を月明かりだけが照らしていた。
空を見上げると雲の隙間から覗く一等星が眩い。
「お……あれは、妖怪……?」
一等星よりも、月よりも、さらに近くの空に牛車が走っている。もしもそれが人間の力で動く車だったなら世紀の発見で世間が黙ってないわけで。世間が静かってことはつまり、妖怪だ。
 ぼんやりと見える牛車に目を凝らせばさらにその奥が……。

「……」
「……」

やっべ。中にいる何者かと目があった。咄嗟にそらして下を向く。
あれにこのお守り効くかなぁ、なんて考えながらしばらく地面を凝視するのだった。




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