忘れてもすゑに

「おーい薫、こっちも頼む!」
「了解っす首無さん。あわわ、それは料理酒だから飲んじゃダメー!」

右も左も上も下も、東西南北にいる妖怪ひとみんながみんな酔っ払いついでに浮かれ気分だから制止するのが大変だ。やっとのこさ奪い取った料理酒を空になった皿と一緒に台所まで持っていく。

夜になってお守りを片手に帰ってくると奴良家全体がパーティーモード。この状態で、私は深夜を回ってもろくに寝れてもいない。別に寝ずに働かされてるとかではなく、本当に私の部屋も含めて家全体がうるさくて寝られないのだ。枕元で納豆小僧と豆腐小僧がラップバトルを繰り広げてくるのである。ライムがそのまま悪夢になるわ。
で、起きてしまった私はこうやって手伝いをしているわけだ。
どうしてこんなことになったのか…興奮して目がギンギンのつららに聞くには孫……つまり奴良リクオが組を継ぐと宣言したとかなんとか。当の本人はすでに就寝済みなのがちょっと解せない。

誰もいないのをいいことに手で隠さずに大きな欠伸をどんちゃん騒ぎが遠い廊下に落とした。

____

「眠そうだけど……。ハッ、まさか薫ちゃんも妖怪に!?」
「違うよ。ただ昨日少し忙しくて寝てないだけ」

 カラカラと自転車のチェーンが回る音でも子守唄になって睡魔を助長させる。
 通学中にまた、欠伸をしてカナちゃんに心配された。宴会でお酒注いだりお酒取り上げたりしてましたなんて言えない。 カナちゃんには悪いけど適当にごまかしておく。

「おはよう」
「おはよう、今日ははやいわね」
「おはよー」

カナちゃんの挨拶にぱあ、と安心したような表情を見える孫。たしかにカナちゃんが可愛いのは分かるけどそこまで表情を変えられると若干きもいぞ。私が言えることでもないけどさ。

「やあ〜君たちごぶさたぁ〜……。あの時以来だねぇ」

怪奇!妖怪呪いワカメかと思ったらなんだいつぞやのワカメくんが怨霊みたいな声と顔で孫とカナちゃんの肩を組む。
旧校舎探索中の記憶が一部欠落していて、その間に妖怪と遭遇していたのでは、と考えついて三日三晩寝れない日々が続いたらしい。

「不良と見間違えたんじゃないからしら。たむろしてた不良がおどかしてきたじゃない!?」

 つららが暴走しそうなワカメくんに歯止めをかける。
 鶴の一声でワカメくんの注意は他に向く。孫の護衛で旧校舎に行ったからつららは何があったのか知ってるしどう誤魔化せば不自然じゃないかも分かってるらしい。

「そ、そんな! してないさ! 気絶なんて! あー、覚えてる覚えてる。不良ね、不良…」
「そーよ!そう簡単に学校に妖怪なんて出ないわよ!」

つらら、君がそれを言うか。
さしもの自己中ワカメくんも美少女つららの言うことには敵わないらしく不良のせい、とこじつけて走って行った。
ドン、と孫に若菜さんの作った手作り弁当を渡したつらら。

「若! 一人で勝手に投稿されちゃ困ります!私か青か、せめて薫に一言……」
「なんでそこに麻宮さんが出てくるのさ!?」
「何いってるんですか若。薫はぬ…」
「あはは、ちょっとおいでつららちゃんんんん!!!」

つららの口を塞いで孫に背を向ける。

「いっちゃダメだよ、つらら」
「なにかダメなの?」
「同級生、それも隣の席の子が自分の家に暮らしてるとかぬら…リクオ……く、さんが混乱するじゃん。だから内緒、ね?」

うーん、と腕を組んで考え始めたつららに再び「分かったよね!?」と捲し立てる。

「なるほど…? 分かったわ……。そういうことなら仕方ないわね?」

納得してくれてなによりだ。つららと並んで孫に向き合う。

「前に偶然買い物帰りに出会ったんだよね、そうだよね、つららちゃん」
「は、はい!だから私たちは決して見知った中ではありません。ね、薫サン」

 まだしこりは残るようだが納得した孫は首を傾げつつそれよりも重要なことに気づいたらしくつららを連れて風のように走り去っていった。さすがライン際のなんちゃら、浮世絵中随一の脚の持ち主。

「ねぇ薫ちゃんあの二人どういう関係なんだろう」
「あー、それは」

 カナちゃん、目が怖いぞ。考えすぎて矛盾スパイラルに陥って目を回しているカナちゃん。

「つららはその、ほら、奴良くんの家って大きいじゃん? 昔ご家族が掃除とかで家に出入りしてた関係で、知り合いらしいよ」
「そうよね!うんうん。所詮知り合いよね……」

 苦し紛れの言い訳に超高速で答えるカナちゃん。だからその気迫は怖いって…。

「私って、結構リクオ君のこと知らないのかも……」
「奴良のことなんて知ってどうするの…?」
「ほら、その、私とリクオ君は幼馴染だから…」
「あの…ごめんなさい。職員室はどこですか?」

 おっとりとしたどこかで聞いたことあるような声が会話に挟まる。靴箱の前より日本庭園が似合いそうな、それこそ『はんなり』の一言ががぴったりな女の子が立っていた。

「勝手がわからなくって」
「それならこの棟の二階だけど。よければ案内しようか」
「ええですよ、悪いですし」
「いいのいいの。気にしないで」

カナちゃんと一旦別れ、女の子の背中を押して職員室に向かう。とはいえ階段上がってすぐだからそう時間はかからない。

「わざわざありがとうございました」
「どういたしまして。転校って心細いよね。なんかあったら頼ってよ」

 小学校の頃はコロコロ学校変わってたおかげで自己紹介とアウェイ感検定は準一級くらいあるつもりだ。
胸を張ってみたがない胸をじーっと見つめられて恥ずかしさが勝った。

「あの、私たちどこかでお会いしたことはないですか?」
「……わっかんないや。私もいろんなところを転々としてたから」

 職員室に入ったと同時に予鈴がなる。もうそろそろ教室に行かないと朝礼に間に合わないので、彼女に一言声をかけてから廊下を走った。

 先生の注意をおざなりにしながら、彼女について考える。何かを思い出せそうで思い出せない。喉の奥に何かが詰まってるような変な感じだ。

どこかで見たことあるような気はするんだけど、どこだったっけ。




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