尋ねて来て見よ、うらみ葛の葉

 人形からは煙が立っていて、目玉が飛び出したり肌が盛り立っている様ははっきりいって超キモい。

「お…陰陽師だって…!?花開院さん、今…たしかに…あなたそう…言ったんだね!?」

 ワカメくんの驚きと興奮混じりの問いかけに頷くだけで答える花開院さん。首を縦に振ったとういことはイエス、つまり本物の陰陽師ということになる。

『イタい…呪っテやる…イテェ、イタい……』
「シャァァァ!!!」

 こちらを威嚇する人形に私の後ろのカナちゃんが小さな悲鳴をあげる。

「やっぱり本物の妖怪なんだ…!」
「はい。本当に危ないところでした」

 冷静に人形を一瞥して安堵のため息をつく花開院さん。この場にいるみんなが驚嘆して声も出ない。
誰もが口をつぐむ中、一番はじめに言葉を発したのはワカメくんだった。

「ほ…ほんとだったんだ!い、いたんだ!陰陽師…ということは、妖怪も!」
 
よほど陰陽師や妖怪の存在が嬉しいのか大きな声で騒ぎ立てる。

「大丈夫、カナちゃん」
「私は大丈夫…。妖怪…ほんとにいたんだ…」
「そうだね。私もびっくりした…マジで」

 たしかに人形がいきなり襲いかかってきたことには驚いた。嘘は言ってない。

「私は京都で妖怪退治を生業とする陰陽師…花開院家の末裔…」
「そういえば花開院て…聞いたことあるような」

 どうやらその界隈で花開院家は有名らしい。とはいえワカメくん以外はなんとなく、すごい陰陽師くらいの認識だ。
ちなみに私はよくわからない。なんだか聞き覚えがあるような気もするが、ついぞ思い出すことはできなかった。

「この町…浮世絵町はたびたび怪異に襲われると有名な町。噂では妖怪の主の住む町とも言われています」

 その妖怪の主、ぬらりひょん…の、孫とつららの方を見れば明らかに動揺していて、それを見ている私までどぎまぎしてくる。二人が何かと抜けている面があることも知ってるから余計に、だ。スルッと口を滑らせて「僕たち妖怪で〜す!」なんて言わなきゃいいけど。

「私は…試練として一族に遣わされたんです。
より多くの妖怪を封じ!!そして陰陽師の頂点に立つ花開院家の当主を継ぐんです」

 孫やつららからすれば死刑宣告となんら変わらない宣言をした花開院さんの表情は今日一日の中で一番柔らかく、目にも静かに炎が燃えている。
 そんな花開院さんの宣言に共鳴したのかワカメくんも目をきらめかせて震えている。

「す、すごいぞ! プロだ! プロが来たんだ! ボクの…この清十字団に!!」

 うーん、修行中の身ならプロじゃないのでは?専門の人なのはたしかにそうだけど。
 床に膝をついて人形をじっと見つめる。相変わらずイタいだとか呪ってやるだとかの声が絶えずさすがにかわいそうになってきたので供養でもしてやろうと思い、手を合わせる。

「麻宮さん、危ない!」
「へ!?」

 突如、力を取り戻した人形は理性も無くし襲いかかってくる。咄嗟のことに柄になく動揺して、自分の持っている力のことも忘れて後ろにへたり込むことしかできなかった。
 その間に、花開院さんが『滅』と力強く唱える。そして人形は着物を残して爆散してしまった。

「ありがとう…花開院さん…」
「安易に妖怪に近づいたらあかん。私…麻宮さんに傷ついて欲しくないわ」

花開院さんから叱咤を受けて私は素直に頷く。

「でもなんでやろ…おかしいな…」

 きちんと拘束したはずなのに動くことのできた人形に違和感を感じる花開院さんがボロボロになった人形に近づく。するとワカメくんがお札の中に紛れ込んだレシートやら割引券やらを見つけた。

「あっ。お財布に式神を入れてたからレシートと一緒に飛ばしちゃったみたい…。一人暮らし慣れてなくて…」

なんだその吉本新喜劇みたいなオチは。
_____

「もう危険なことしちゃダメだよ!」
「分かったから。ね、落ち着いて、カナちゃん…」

 険しい顔で頬を膨らませるカナちゃんの頭の中が怒りでいっぱいだってことはどこから見ても明らかだ。私は謝ることしかできずに、彼女をたしなめ続けた。
 それもこれも私が人形の前に出て行って襲われそうになったから。

 ワカメくんの家から浮世絵町駅までの道のりを私とカナちゃん、あとつららと孫の4人で帰っていた。カラカラと自転車のチェーンが音を響かせる。

「まあとにかく日曜日楽しんで来てね…!任せたよ。ね、奴良くん!」
「うぇ!?う、うん」

 慌てて二つ返事した奴良くんは困った風に頭の後ろをかく。

 花開院さんの加入によりノリに乗り、テンションが上がりまくったワカメくんの無茶振りにより日曜日、清十字怪奇探偵団は奴良家に集まることになったのだ。日曜には神社での仕事があるし、なにより興味のない私は適当な理由をつけて断った。奴良家なら孫の手がついた妖怪しかいないし安全だろうし、私ができることなんて少ないだろうから。

「私はこっちだから。じゃあね!」

 他愛ない会話をしているとすぐに駅までついて、三人と別れる。
 孫やつららとは向かう場所は一緒だけど移動方法は違うからここで一旦お別れ。といっても奴良家ではつららと会うことはあっても孫と会うことはほぼほぼないけど。なにせ三年通ってても気づかなかったくらいだからね。

 下り坂を加速して降りて行く。この風が気持ちいいから下校は好きだ。登校の時はこの坂登らないといけないから嫌だけど。




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