ちはやぶる、からくれなゐに

「オウ、薫!!」
「ふぎゃっ!?」

 奴良家に戻って制服に着替えた。奴良家に戻るとすぐにつららや他の小妖怪からも同じように怪我のチェックをされた。孫にも会って色々と話してみたかったのだけれど、毛女郎さんに聴いた話によると、生憎体調不良らしく質問は明日は繰り越すことにした。
朝ご飯の準備をして、弁当を受け取って孫より早く家を出るため、たったと早足で廊下を駆ける。すると曲がり角から出てきた鴆さんとぶつかる。
 やたらと眉尻の角度を上げている鴆さんは私の姿を見るなりガッシガッシ、ぐわんぐわん頭をこねくり回した。目を回す私のかわりに鴉天狗さんが止めてくれてことなきを得る。ふらつくのを鴉天狗さんに支えてもらう。

「お前、昨日の出入りで怪我したらしいな。平気か!?」
「私は平気です…むしろ今の方がピンチかも…」

頭の中を掻き回されてふらつく。庭川の柱に捕まりながら膝を曲げてなんとか目の前を見据える。

「そうだ、オレはリクオに出入りのことをだな!」
「ちょ、ちょっと待ってください」

珍しい私の静止に鴆さんは目をぱちくりさせる。

「朝まで大変だったらしいですし、今は寝かせてあげてください」

「あ、学校から帰ったらたっぷり絞ってもいいと思います」と付け加えると、鴆さんはふ、と美丈夫らしい柔らかくも芯のある笑顔を浮かべる。

「お前も無理はすんなよ」
「え、あ……はぁ……」

普段は暴走機関車のような彼だが、なぜか今日は私の言葉が響いたらしい。踵を返して鴉天狗さんに客間への場所を聞く鴆さんを横目に、私は玄関へと急いだ。

_____

 カナちゃんの様子がおかしい。
 顔を赤らめ、目線を空に何かを思い浮かべては時たまハッと我に帰り首を横に振って、なんてことを繰り返している。
 その姿は典型的な恋する乙女。ああ、彼女の周りの雰囲気が桃色に見えてきた。
 親友のそんな姿を長く見てられずに話しかける。

「何かあった?今日はいつにもまして可愛い仕上がりになってるけど」
「へ!?そ、そうかな。普通だと思うよ。そう、今日も普通よ……」

 まーたカナちゃんは自分の世界に入り込んでフツウフツウと呟き始めた。

 旧鼠の件(といっても夜を跨いだ今日の話だからそんな実感は出ないが)について、花開院さんと一緒になったカナちゃんに身体中を触られまくった。
 怪我はすでに完治しているので心配ないと言えば声を揃えてどういう体の構造をしているんだと言われた。仰るとおりで。自分でも知りたい。


なんやかんやで放課後。
なぜか空き教室に集められた清十字怪奇探偵団の面々。約一名を除いてやる気のなさそうな顔が並んでいる。

「うらやましい〜〜〜」

悲壮そうな顔をして、『浮世絵町大炎上!』なる見出しの新聞を手にするワカメくん。死にかけたり手篭めにされかけたり、羨ましがられる要素なんてどこにもないとおもうけどな。

「うらやましくないよ……すっごく怖かったんだから!!」

 同じことを考えていたカナちゃんがワカメくんの言葉をすかさず否定するがそれでもなお一番街に行けばよかったと拳で机を叩くワカメくんはもう手遅れっぽい。一度路地裏で後ろから殴られればいいと思うよ、うん。

「家長さん、麻宮さん。ごめんなさい。私にもっと力があれば良かったんやけど」
「花開院さんが謝ることはなにもないよ。それくらい仕方ない状況だったし……。それに結果的には私もカナちゃんも花開院さんも生きてるんだし、結果オーライってやつだよね」

 私の言葉にピンときた風に此方に身を寄せたワカメくんをパーソナルスペースギリギリで止める。

「そうだ!君らがピンチだからこそ彼は現れた!!それでこそボクの憧れる夜の帝王!!妖怪の主なんだぁーー!!」

 語りの熱量がつららの孫に対するそれと同じだ。でもなんだろう、つららのものと違って気持ち悪くも感じてしまうのは気のせいだろうか……。
 ワカメくんのノリについていけないのは私だけではなかったらしい。ついに疲労と、その他もろもろで机に体を預けて寝る準備を始めたカナちゃん。

「ったく……貴重な時間を……!!時は金だぞ!金霊は金気だぞ!!……ん?」

 何かに気づいたワカメくんは周りをキョロキョロと見廻す。

「なんか……人が足りなくないか?」
「ああ、今日は奴良くんが休みだから。もともと人数が少ない分『抜け』が出ると目立つんでしょ」

 あっけらかんにこたえると、つららに凝視される。そういえばこの子、なんで護衛なのに孫の近くにいないで学校に来てるんだ。

「わ、わ……わ」
「わ?」
「私としたことがぁぁ!!!どうして言ってくれなかったんですか、薫!!!」
「ごめん。てっきり承知の上でなお学校に来てるもんだとばかり」

 つららに肩を持たれて揺さぶられるが、すぐにこんなことをしている場合じゃないと気づいたつららに投げられた。衝撃で瞑った目を開くとすでにつららはいなくなっていて、先ほどまで閉じていた扉が開いて少し煙が立っていた。摩擦熱で溶けなきゃいいけど。

「すごい勢いだったわね……」
「そうだね〜あの勢いのまま奴良くんに特攻かけてなきゃいいけど」
「え、リクオくんに?」
「そうそう。看病が行きすぎないといいけど」
「「か、看病!!!!」」

なぜか島くんとカナちゃんの声が被る。

「私もいく!!」
「お、オレもいくっス!!」

 急にやる気に満ち溢れ始めた二人は帰宅準備を始める。看病ガチ勢の方達だ。私的にはなにがなんだかと言った感じだが黙っていられない男が一人。

「なにぃ!?それじゃあゴールデンウィークのすんばらしい計画について話し合いができないじゃないか!!」

 うわ、嫌な予感しかしない。そんなことで集められてたんだ……みたいなショックが大きい。まあ、孫のあれこれでそれがおじゃんになったならそれはそれで感謝しなきゃいけないかも。

サンキュー、孫!!

「そうだ!奴良くんをお見舞いするついでに奴良くん家で話しをすればいいんだ!」

んんん???
変な流れになってるくないか?

「いやいや、お見舞いってこんな大人数で行ったら奴良くんだって迷惑だと……」
「よし。いますぐ出発しようじゃないか!」

 高笑いしながら面々を引き連れて教室を出ようとする彼を引き止める手段など持ち合わせていない。仕方なく暴走気味になるワカメを止めるためについていくことにした。






 戻る/トップ