かみのまにまに

 制服を買わなきゃいけない花開院さんとは学校で別れて、清十字怪奇探偵団?は奴良家を目指した。
いつもなら自転車で行く道を電車で移動すると普段の三倍くらいの速さで家に着いた。なんか悲しいな……。

「お邪魔しまーす!!!!!」

声がデカすぎて耳がキーンってなったよこのバカワカメェ……。お見舞いに行く時のテンションではないと思うぞ。

「いらっしゃいませ〜」

 伸びた語尾で迎え入れてくれたのは毛女郎さん。私に気づいて不思議そうな顔をしている。

「みんなで若様……リクオくんのお見舞いに来ました」
「あら、そうなの。じゃあ上がってくださいな」

 毛女郎さんに案内されて孫の部屋に向かう。何年もここに住んでるけど、彼の部屋にいくのは初めてかもしれない。私自身避けてたのもあるけど、あまりにも大きい屋敷だから機会すらなかなかなかった。

「ホー!この前は気づかなかったが見てみたまえ。こんなところに顔っぽいシミが!」

 ワカメくんの興味は奴良くんではなく妖怪屋敷と呼ばれる彼の家に完全に持っていかれている。もともとこれが目的でここに来たんだろう。
 あと、顔っぽいシミじゃなくてそれは本当に妖怪の顔だ。人間にバレないようにという緊張から汗が出てるんだ。

「私は奴良くんのお母さんにこれを渡してくるよ」

 連日大人数で押しかけたことへのお詫びとして買ってきた(代金はワカメ持ち)お菓子を若菜さんに渡すために一行と離れる。迷うことなく一直線に台所まで向かい、孫のためのお粥を作っていた若菜さんに渡すと、

「あら、ちょうど良かった!お茶菓子が切れてたのよ〜。これを持って行ってもらっていいかしら?」

と言われた。
それじゃあ意味ないですよ……。

 でも、中身にまるで興味のない人たちばかりだしバレなさそうだから持っていくことにした。盆の上に開封したばかりの和菓子を乗せて廊下を歩く。

すると目の前に見知った後ろ姿を確認した。

「やっぱり帰ってたんだね」
「薫も早かったわね。あれ?それって……」
「ああ、お菓子だよ。お見舞いに来てるからさ」

つららと肩を並べて廊下を歩く。奴良くんの部屋の扉を開けようと手をかけるとつららに小声で制止された。髪をはらい、服についたゴミをとったりといった身だしなみチェックの後に深呼吸したつららは「よしっ」と気合を入れ直した。どうやら彼女も看病ガチ勢だったらしい。

「お待たせ〜。リクオさ」

がしゃんっっ!

 つららが持っていたお盆が落ちて湯飲みが割れる。つららを見つめるのは部活の面々。
あ、そういえばみんなが来てるの言うのを忘れてた……。

 混乱するつららの左目には全、右目には滅が浮かんでいる。思わず腕を掴んで廊下の方まで引き戻す。

「全滅させてごまかそうとかダメだよ?!」
「そ、そんなこと考えて、ななないわ!」

 つららには悪いことをしてしまった。お詫びと言っちゃあなんだけど誤魔化す手伝いくらいはしてあげよう。

「ほんの十分ほど早く彼女は来ただけで……」
「そうですよ、途中まで一緒だったでしょ。ね、薫」
「そうそう!電車の中で納豆小僧の頭の中は腐っているのかについて熱く議論を交わしたよね!!」

 三人がかりでごまかせば流石に騙されてくれている。カナちゃんが深刻そうな顔で考え込んでるのは無視しよう!

「さあて、看病はさておき!!ゴールデンウィークの予定を発表する!!」

 マイペースを貫くワカメくんによって話題がずれる。空気読めないけどこれはナイスだ。

「ボクが以前からコンタクトを取っていた妖怪博士に会いにいく!!」

妖怪博士。
まるでこの世すべての胡散臭さを四文字にまとめてみましたみたいな言葉だ。

「場所はボクの別荘もある捻眼山!!今も妖怪伝説が数多く残るかの地で妖怪修行だ!!」

「お言葉だけどワカ……清十字くん。今の私たちが行くのって非常にまずいんじゃないか?」
「どういうことかね?意見を聞こうじゃないか」
「私もカナちゃんも花開院さんも、先日の浮世絵町大炎上の一件で渦中にいたんだ。悪いものに当てられて、妖怪を呼び寄せてしまうかもしれないよ。そんな状態で伝説の残る地に行くのって危険すぎない?」

「だからこそいいんじゃないか!妖怪と会える可能性が高ければ高いほどいい!!そのための妖怪修行でもあるんだからね!」
「いや、だから……」
「それにボクたちには陰陽師の末裔、花開院さんと巫女であるキミがいるじゃないか!」

たしかに数人程度を山から逃す自信がないわけではない。

けど、不安だ。これが自分の力によって引き起こされている確実性を持ったものかどうかはわからないが、とにかく心の中の空模様が曇天であることに変わりはない。

ワカメくんの発表が終わると合宿のしおり、なるものが渡された。パラパラとまくって目を通せば「お菓子は150円まで」などと書いてある。


ワカメくんは長々と捻眼山について、妖怪博士がいかに素晴らしい研究結果をあげているかなどを語っているが私は興味がないのでしおりの方を読み耽っておく。

「と、もうこんな時間か。では奴良くん、失礼するよ。また家に呼んでくれたまえ。いつでも調査にこよう」

別に今日は呼ばれてきたわけじゃないだろ、と思いつつたしかに時刻は6時前だ。いくら夏が近くなり、日が長くなったとはいえ子供が歩き回っていい時間ではない。

「今日は大人数で押しかけてごめんね」
「大丈夫!体調も随分良くなったし……また明日!」

奈良くんに手を振って部屋を後にした。

私とつららはみんなと一緒に帰るふりをして、駅まで行ってから、もう一度同じ道を歩いて帰ってきた。自転車は明日でいいや

私服の上から割烹着を着て、三角巾を結べばいつもの姿に変わる。今日は玄関前を掃いて、明日の風呂掃除の準備をしなければならない。

洗剤あったかな、なんて考え事をしながら廊下を歩いているとふと思い出す。

そういえば孫は薬飲んでないよな……。

本当に余計なことを思い出してしまった。できるならつららに頼みたいけど、彼女は夕飯の準備で忙しそうだし、かと言って他に頼める人間もいない。

仕方なく薬を持って孫の部屋まで運んでやることにした。

数十分前とは打って変わって静かさの漂う廊下。きっと鴉天狗あたりが誰もつかずかないように言っているんだろう。

普段感じない緊張感を持って歩む。

「失礼しまーす」

扉を開けると、すぐ目に入ったのは呼吸を荒くした孫。もうすでに意識を手放している。やはり無理をしていたらしく、苦しそうに息を吐いては、浅く吸っていた。

薬を飲ませるために、腕で上体を支えてやる。

「大丈夫?ほら、薬飲んで」
「ん……」

薄目でこっちを一瞥してから、薬を飲まないといけないと言うことを理解して口をこれまた薄く開いた孫。
自分で飲む気はさらさらないらしい。このお坊ちゃんめ……!

粉薬を少しずつ水と共に飲ませてやると、水分補給しただけでもだいぶ楽になったらしく粗かった呼吸も普通に戻った。
体を元どおり寝かしてやって、布団も戻してやる。別に私はこいつの家来ではないんだけど、あのうるさいのを止められなかったことに対する罪悪感が少しばかりあった。

だから、薬を飲ませてあげたんだし、まあチャラでしょ!くらいの軽い気持ちでいたのだが……。
強く握られた片手はまるで床に縫い付けられているみたいだ。予想外に力が強い。さすが男子。

「離してよ……」
「かあ……さん」
「母親じゃないっての」

ここで起こせば色々厄介だと思い我慢する。しばらく繋いだままになった手はすごく熱かった。





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