仲良きことはなんとやら

ホテルまでもうすこしというところで、シンガポールでも有名らしい毛利さんに予備警察官のリシさんから声がかかった。なんでも解決してほしい事件があるようで、最初は休暇だと渋っていた毛利さんも工藤くんがコソコソと耳元でなにかを伝えたらころりと態度を翻した。

よかった!破顔してリシさんが掲げて見せてくれた携帯の画面には怪盗キッドの予告状。一瞬にして目の色を変えた探偵さんふたりと、はしゃぐ園子ちゃんになんだかなあと思いながらも早々にパトカーに乗り込んで行った背中に、わたしもアーサーくんの手を引いて蘭ちゃんと一緒に2台目のパトカーに乗り込んだ。空調の効いた車内は汗をかいた肌には寒いくらいで、アーサーくんを膝に乗せてぬくぬくと暖をとっていたらうっかり寝てしまいそうになった。

「もーなまえしっかりしてよ!」
「うぅ〜···」

レオン・ローさんの邸宅に着いたのは、すっかり日の落ちかけた頃だった。なんども意識が飛びかけてふらふらしていたわたしの腕を引いてくれる蘭ちゃんと共にエントランスに入り、そこでリシさんが詳細を教えてくれたけどあまり頭には入ってこなかった。

「キッド様の華麗な盗みのテクニック!世界中のどんな女性も彼にかかればハートも盗まれ──」
「ストップストップ!園子!」

うっとりと天井に熱い視線を飛ばす園子ちゃんを蘭ちゃんが慌てて止めた。先程からギシギシと鉄が軋むような歪な音は悦に浸っていた園子ちゃんにはすこしも届いていなかったようだ。蘭ちゃんに顎で示されて、ようやく京極さんの不穏な空気に気づいたらしい。ゲッと園子ちゃんが表情を硬くした。

「──って!なまえがこの間言ってたわよね!」
「んえ?」

唐突に向けられた矛先に、ふわあと欠伸を抑えていたわたしは空気の抜けた声をもらしてぱちぱちと瞼を瞬いた。一体、なんのはなし。まどろみが抜けきらないせいか理解が追いつかず首を傾げるわたしに、園子ちゃんがずずいと近寄ってくる。

「え、っと。キッド様がどうしたの?」
「ほら!キッド様の盗みのテクニックがすごいって!あの純白のマントに一度は包まれてみたい〜ってわたしも盗んでほしい〜って言ってたじゃない!」
「そんなこと言ったっけ?」
「言ったのよ!!」

言ったっていいなさい!と無言の圧力が、ぎらりと鈍く光ったエメラルドグリーンからひしひしと伝わってきた。園子ちゃんの背後では、蘭ちゃんが困ったように笑ってちらちらと京極さんに視線をくれている。なるほど、自分の失言をまるっとわたしに擦り付けようとしているのか。ポンッと手を打ちたくなるようなすっきりとした気持ちで園子ちゃんをみれば、鼻先にある必死な形相に思わず喉が引き攣ってしまった。

「あ、ああ!そういえばそんなことも言った、ような···」
「そうそう!世の女性がみんな虜になっちゃうのもわかるぅって言ってたわよね!なまえったらいつの間にかキッド様に夢中になってるんだから〜」
「うんうん。わたしもいつかキッド様に盗まれたいなあ」

園子ちゃんが満足するならまあなんでもいいやと、投げやりに話をあわせておく。まったく気持ちは篭っていなかったが、わたしが肯定したことで表情を和らげた園子ちゃんがやっと顔を離してくれて、逸れた視線にこっそりと胸をなでおろした。

「まあ、とおーぜん!私と蘭はそんなことすこしも思ってもいないけど!ねえ、蘭?」
「え、うん、もちろんよ!」
「ええー」

蘭ちゃんまでそっち側だなんて、それじゃあわたしだけが無駄な被爆を受けたことになる。あんまりだ。腕を組んで仲の良さをアピールしているふたりをじとりと見つめてみるけど、まったく視線が合いそうになかった。園子ちゃんのせいでとっくに眠気は散ってしまった。