ドラコ・マルフォイ 1/2
一度も停車をすること無く、速度を増したトロッコは瞬きをする様にあっという間に地上へと到着した。宣言通り、口を開く事のなかったハグリッドはへろへろと巨躯を動かしてグリンゴッツの階段を下っていく。暫くぶりの陽の光に目を細めながらハグリッドを追い掛けたハリーとシンシアに、階段の下で立ち止まるとハグリッドは漸く口を開いた。「まずは制服だな。俺は漏れ鍋で元気薬を一杯引っ掛けてくるからハリーとシンシアは先に行っといてくれ。なーに、シンシアが居たら迷う心配もないだろ」
「ええ、それはもちろん⋯。けど、大丈夫?私も着いていこうか?」
明るい場所で見るハグリッドの顔は、目を見張るほど真っ青だった。眉を垂らすシンシアにハグリッドは頭を振ると力無くシンシアの頭に大きな手を乗せた。「いんや、それよりハリーを任せたぞ」ポンポンと二度、頭を叩いたハグリッドはそれだけ言うとふらふらと覚束無い足取りで人混みの中に紛れて去っていく。「ハグリッド、大丈夫かしら⋯」ハグリッドの大きな背中を心配そうに見詰めるシンシアに、ハリーはうんともううんともつかない微妙な返事を返すしかなかった。
「制服だと⋯マダム・マルキンのお店ね」
「シンシアは此処によく来るの?」
ハグリッドの背中が見えなくなるまで見送った後、ハリーとシンシアは揃ってゆっくりと歩き出した。やっと落ち着いてお店を見て回れる状況と、それらしい買い物が出来ることに浮き立つ足先を押さえ込みながら、ハリーはシンシアに問い掛けた。
「うん。家が近いの」
「そうなんだ」
「大体の買い物は此処で出来るし、おもしろいものがいっぱいあるの。家に居ても暇だしね」
おもしろいもの。シンシアの言葉に、はやく色んな物を見て回りたくてハリーはうずうずとした気持ちになった。真っ直ぐとグリンゴッツに向かった道中でも、遠目から惹かれるものは山程あったのだ。そんなハリーの心境を察したシンシアがくすくすと柔らかく笑う。
「フローリアン・フォーテスキューのアイスクリーム・パーラーは新作を出すのが早いのよ。あとで一緒に食べましょう」
にっこりと笑ったシンシアに、ハリーの顔が一瞬で熱くなった。「あー、うん。いいね」ぎこちなく笑ったハリーはシンシアから瞳を逸らすと誤魔化す様に辺りに視線を配らせた。急に、忙しなく首を巡らせはじめたハリーを気にせずシンシアは軽やかに足を進めていく。
魔女の帽子や奇抜な服がぶら下がっている洋服店、箒を売っているお店、よく分からない物が置いている雑貨店──店の前に居る人、通り過ぎる人が此方をこぞって振り返っていることにハリーは暫くして気が付いた。ハリーと視線が合うと、誰もがサッと顔を逸らす。横にどっぷりとしたふくよかな魔女に視線を逸らされたハリーは、握手を求められた事を思い出し、傷痕を隠すように前髪を弄ったが、なぜかその横にいる惚けた男性との視線は合わないのだ。不思議に思いながら男性の視線の先を追ったハリーは、そこでやっと納得した。
視線を集めているのはハリーではなかった。先程の爆走トロッコで髪が乱れていようが、影ができる程の長い睫毛にくりりとした大きな瞳、主張しすぎない高い小鼻とふっくらとした形の良い唇。整ったパーツが収められる小さな輪郭と雪のように透明な肌は、確かにどこかの芸能人のように振り返りたくなるくらいに整っている。
ハリーはさり気なくシンシアとの距離を縮めた。肩か触れ合いそうな距離まで近づいたハリーにシンシアが瞳を向けたが、ハリーは素知らぬ振りをして口を動かした。
「そういえば、さっきグリップフックと何の話してたの?」
「ああ、あれね。あの量を維持して貰うように頼んだの。金庫に入らない分は聖マンゴ魔法病院に寄付して欲しいって⋯──着いたわ」
足を止めたシンシアにハリーも従った。目前の建物には「マダム・マルキンの洋装店─普段着から式服まで─」と大きな看板で掲げられていた。トロッコから降りた後、シンシアがグリップフックに話し掛けていた内容も気にはなったが、躊躇なく扉を開けたシンシアにハリーの思考は一瞬で店内へと惹き込まれることとなった。
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