※本編とは別物ですが、設定のネタバレ含みます ※細かい設定は低迷主と一緒で+霊感あり ※本編よりも性格が無気力で冷めてます ※小学一年生スタートなのでキャラとの面識もないです ※ホラーチックでふざけてます ※登場していない先生など色々捏造しております ※相変わらず医療に関する知識は乏しいです ※ツッコミ所満載ですがそれでも良い方のみ 「再来週の授業で、リコーダーのテストをします。6人で演奏してもらうので、今日の授業はグループを作って練習してくださいね」 そう言って、老年の池田先生が教卓に腰を下ろしたのを合図に、一斉に生徒たちが動きだした。正面の五線譜の描かれた黒板に達筆な筆跡で板書されている曲は「きらきら星」だ。中学の時の嫌な記憶が鮮明に掘り返されて、げっと顔を顰めるオレの席に元太と光彦、歩美が笑顔で近寄ってきた。教室の席順で座っているから、オレの隣は灰原だった。 「きらきら星だって!」 「おいコナン!ちゃんと練習しろよ!」 「わーってるよ」 合唱が主だった音楽の授業は先月からリコーダーに移り変わった。小学校に上がったばかりの彼らにはなにもかもが新鮮なようで、ひらがなの書き取りも算数も楽しそうに熟している姿がよく見られた。楽器の演奏もまたそのひとつの様で、オレの散々な音楽の成績を知っている元太に念を押されすこし不貞腐れる。とはいえ、こればかりは努力でどうこうできる問題でもないのだが、それを言うのは癪だった。 「それで、あと一人はどうします?」 光彦がオレたちを見下ろして首を傾げた。少年探偵団は入ったばかりの灰原を含めても5人。あとひとり、頭数を揃えなくてはいけなかった。 「あと一人っつてもよぉ〜」 「これじゃあ誰を誘えばいいかわかんないね」 きょろきょろと教室を見渡す歩美と元太を真似て、ぐるりと辺りに視線を配る。大体、グループができあがったのか固まって練習をはじめている光景がみられた。「クラスの人数的に、誰かが余るはずよ」ピーピーと抜けたような音色が所々で聴こえる中、相変わらずの澄ました表情で灰原が言う。灰原のいうとおり、クラスの総勢は6で割り切れるはずだった。 「あっ、」 「どうしたのコナンくん?」 後方の隅の席。席に座ったままの少年にピタリと視線が留まる。彼が、溢れた生徒だというのはすぐにわかった。けれど、意図せず上がった声に小首を傾げる歩美にも反応を返せなかった。まるで縫われたようにすこしも動かせない瞳に、思考までも奪われた感覚だった。あんなヤツ居たっけ。雪のように透明な肌も、長い睫毛に縁取られた宝石を埋め込んだような大きな瞳もふっくらとした形の良い唇もサラサラと肌触りの良さそうな髪の毛も、性別さえ超越するような完璧な容姿でありながら誰にも気づかれずひっそりと静観する姿はあまりにも浮世離れしていて異質にうつったのだ。快活とした他の子たちに比べ、彼の纏う空気はひどく静かで、どこか一点を見詰めたまま微動だにしない彼の姿はまるで他所と切り離されているようだった。 あんぐりと惚けていたオレは、不意に向けられた彼の瞳と交差した視線にギクリと身体を強ばらせた。別に、悪いことをしていたわけでもないのに、反射的にサッと顔を逸らす。そうした後でしまったと思ったが、もう一度、彼を振り返る勇気はなかった。「なにかあったんですか?」様子の可笑しいオレを訝しんでいた歩美たちが、オレの視線を追うように背後を振り返ったようだった。 「あっ!あの子、ひとりだよ!」 「じゃあアイツ誘おうぜ!」 「でも、あんな綺麗な子、うちのクラスにいましたっけ?」 ぼうっと見惚れている光彦を尻目に、歩美と元太が声を張り上げる。「お〜い!」「ねぇ、キミ!」彼は、もうオレのことを見ていなかったようで、掛けられた声にも無反応だった。 「なんだぁ?聞こえてねぇのか?」 「違うよ、気づいてないんだよ。そういえば、あの子、名前なんていうんだろう?」 「──みょうじなまえ。彼の名前よ」 「そうなんだ!ねぇ、みょうじくん!」 灰原の言葉を聞いて歩美が再度、彼に呼びかける。今度は、気づいたようだった。パタパタと3人が彼の元へ向かうのを横目に「なぁ、なんでお前が知ってんだよ」後方を気にしながら声を潜めたオレを灰原がチラリと一瞥する。初日に自己紹介をしたであろう歩美たちならともかく、灰原が彼の名前を知っていたのが意外だった。 「あら、不思議?」 「そりゃあな」 「どこまで彼等の手が掛かっているのかもわからないのに、通う学校を調べるのは当然でしょ?誰かさんは自覚がないみたいだけれど」 「はいはい、悪かったな。自覚がなくて」 こと奴等に関して、彼女はいやに過敏だった。それほど危険な組織であるし、彼等の非道な悪事を間近で見てきたからこそ余計に慎重になるのも頷ける。しかし、無数にある小学校のひとつにこうもピンポイントで彼等に繋がる人物がいるとも思えず、神経質に成りがちな彼女を不毛に思うのはオレに自覚が足りないからか。けれど、こうして灰原が何食わぬ顔で授業を受けているということは、その可能性が潰れたということだ。当初に比べ、感情が表に出てきた彼女を見る限りあながち不毛でもなかったのだろうと思い直す。 ジッと横顔を見続けるオレに、灰原が眉間をしかめた。なに。突き刺さるような視線で訴えてくる彼女に、いや?と肩を竦めてみせる。しっかりと口角の上がった口許に、灰原はひとつ息を吐くとチラリと後方に視線をやった。 「みょうじなまえ。父親はみょうじ医院の院長。母親は彼が3歳の時に他界し、現在は都内のマンションで一人暮らし。彼に情報はこれだけよ」 「みょうじ医院って、あの?!」 みょうじ医院といえば、都内でも有数の病院だった。実績はもちろん悪評も無く、有能な医師が揃っているという。中でも彼の父親──みょうじ国敦の評判は高く、その完璧な手捌きと奇跡ともいえる数々の功績から神の手と評されるほどだった。 「ええ。元々はお年寄り向けの小さな医院だったそうよ。今ではあまり表舞台には立たないようだけど、当時から親身な医者だったみたいね」 「へぇ、じゃあ案外噂も本当なのかもな」 自ら事故現場に赴いて、負傷者の治療に当たったとか孤児院や路頭に迷う人々を定期的に検診しているだとかそんな善行な噂も、正直、眉唾だと思っていたが或いは。そう感嘆に息を漏らしたオレと反して、「どうかしらね。」薄らと目を細めた灰原はどこか腑に落ちていないようすだった。 「所詮、ネット上のはなしよ。いくらでも書き換えれるし、隠蔽だってできるもの」 「おいおい、いくらなんでも···」 「有名な大学病院ですら悪評のひとつやふたつは流れているのよ。それなのに、ひとつもないのが逆に妙だとは思わない?」 ───死んだ人間は蘇らせることはできないのよ、たとえ神の手であってもね。そう自嘲気味た笑みを浮かべる彼女に、オレはゆっくりと口を閉ざした。瞳を伏せた彼女に考えすぎだとは言えなかったし、たとえどんなに功績を残していようが命を預かる以上、どこかで亀裂が生じるはずだ。灰原の言うように、生死のやり取りが身近にある現場でありながら、恨み言のひとつもないなんてそんなこと有り得るとは思えなかった。 それに、まだ僅か小学1年生の彼が、ひとり暮らしというのも疑念が過ぎる。たとえ父子家庭で忙しい身であっても、子供と呼べる年齢である彼を放任しているのが気がかりだった。 「──くん、···もう!コナンくんってば!」 思いのほか、深く考え込んでいたらしい。いつの間にか近くにいた歩美の声に、ハッと我に返ったオレはぱちぱちと数回瞬いてその膨れた顔をゆるりと見上げる。 「···ああ、わるい」 「どうしたの?練習はじめるよ?」 不思議そうに見下ろす歩美の背後には、元太、光彦、そしてみょうじが立っていた。どうやら無事に勧誘できたようだ。近くで見ればよりその精巧な顔立ちを痛感させられる。引き剥がした視線の先では灰原が、彼女にしては珍しく瞼を瞬かせていた。「···日本人形っていうよりビスクドールね」彼女なりの賛辞は、幸いにもオレにしか聴こえなかったようだった。 大幅に遅れをとってから、オレたちのグループもようやく練習を開始した。身近な机を引っ付けて、6人で固まるように座っているオレの真向かいの元太は、先程から歪な音を鳴らしていて左右の光彦と歩美が必死に教え込んでいた。オレ左側に座る灰原は、練習する気は無いのかリコーダーは卓上の隅に置いたまま、拡げた書物に目を落としている。右側のみょうじも同様に、ずっと一点を見つめたままリコーダーに手を付ける様子はなかった。そういえば、声を掛ける前もどっか見てたよな。早々に匙を投げていたオレは、くっきりとしたその横顔が向く先を興味本位で追いかける。 「···ピアノ?」 彼が見ていたのは教室の端に鎮座しているピアノだった。黒々とした艶のあるピアノの側板は所々に傷が付いていて、長年の使用感が感じられる以外はこれといって注視する箇所は何も無い。怪訝な呟きを聴きとったみょうじがピクリと微かに反応したのがわかった。けれど、彼はなにも言わずに前を向いただけだった。此方を見向きもしないみょうじにわずかに眉を持ち上げる。 「なぁ、なんでピアノなんか見てたんだ?」 「べつに」 「べつにって···そんな感じじゃ──」 「ピアノっていえばさ!」 ──なかっただろ。オレの言葉は最後まで続かなかった。突如、会話に割り込んできた歩美がキラキラとした笑みを浮かべて机に身を乗り出したからだ。注目を集めた歩美が、チラリと背後の池田先生を気にするように一瞥して声を潜める。 「···最近、変なうわさが流れててね」 「変な噂、ですか?」 「うん。放課後、誰もいなくなった頃に音楽室からピアノの伴奏が聴こえてくるんだって。たまたま忘れ物を取りに来た友達のお姉さんが聴いたみたいで、上級生の間じゃあ結構聴いてる人がいるみたいだよ」 「ンなの、誰かが練習してんだよ」 頬杖を付きながらばっさりと一蹴すれば、歩美がムッと頬を膨らませた。同時に、元太と光彦から鋭い視線が向けられる。 「でも!音楽室の前まで行ったけど鍵が掛かってたって!」 「内側から鍵掛けてたんだろ」 「ぼそぼそって誰かが話してる声が聴こえたって!」 「じゃあ、他にも何人かいたんだな」 「それに、何年か前にこの学校で人が死んでるって!」 「···死んでる?」 食い下がる歩美に、お座なりに答えていたオレはその一言にピタリと動きを止めた。ぐっと眉を寄せたオレに、狼狽えた歩美が、持ち上げていた腰をゆっくりと下ろす。灰原。静かに呼びかければ彼女はやんわりと首を振った。 「調べてみないとわからないけど、聞いた事はないわね。」 「でも、歩美聞いたよ。何年か前に女の子が交通事故で死んじゃったんだって。その子、ピアノが凄く上手で、コンクールの発表会の前日に亡くなっちゃったからその子が弾いてるんじゃないかって噂になってるんだもん」 「ってことは、幽霊ってことですか···?」 「ば、ばかだな光彦!幽霊なんている訳ねーじゃん!」 「えー!お化けは絶対いるよ!ねぇ、みょうじくん!」 突然、話を振られたみょうじはゆるりと歩美に視線を向けた。歩美のほんのりと赤く染まった頬には、期待だけではない色がみてとれた。固唾を飲んで待つ彼等の視線を浴びながら、みょうじはたおやかに口を開く。 「いるんじゃない。UMAも宇宙人もサンタクロースも信じる人がいれば存在するし、火のないところに煙は立たないっていうしね」 ぱらり。すぐに視線を落としたみょうじが教科書を捲る音がいやに響いた。「ほら!やっぱりお化けはいるんだよ!」「いーえ!幽霊もUMAも宇宙人もそんなの迷信です!」「じゃあ、本当にいるのか俺たちで調べてみようぜ!」そう、いきり立つ彼等を横目に灰原を見遣れば、彼女は肩を竦めただけだった。正面に視線を戻せば、彼等は拳を突き上げていて、少年探偵団としてこの噂の正体を突き止めるつもりでいるらしい。幽霊なんている訳ねーだろ。そう冷めた目で見ているオレも、科学者である灰原も見えない存在など信じていないが、平和すぎる日常に暇をしていたのもたしかなので彼等のやる気に口を挟む気はなかった。チラリと一瞥したみょうじはまた、気だるげにピアノを見つめていた。 「えー!みょうじくんも一緒に調べようよ!」 「ごめん。用事あるから」 「んだよー。付き合いわりーなぁー」 「元太くん、そんな言い方はだめですよ」 「そうだよ。用事あるなら残念だけど仕方ないよね」 今日の授業が終わり、元気よく生徒たちが退室していく教室で早速行動にうつした歩美たちがみょうじの席に押し掛けていた。ピクリとも表情を変えず、淡々と告げたみょうじに元太は鼻を膨らませていたが歩美と光彦はしょんぼりと肩を落している。掴み所がない彼と仲良くなれるいい機会だと思っていたんだろう。音楽の授業の後からずっと彼を観察していたオレも素性がわかるかもと期待していた分、来ねーのかなんて僅かな落胆が胸に落ちる。これだけ目立つ容姿でありながらぼんやりと窓の外を眺めるみょうじの存在感はあまりにも薄いようで、友人と呼べる人はいない彼の用事というのが気になったがそこまで踏み込んで聞ける仲でもなく、とぼとぼと気落ちして戻ってくる彼等を大人しく待った。 「みょうじくん用事あるんだって」 「そうか。それで、どうすんだ?」 「えーと、まずは上級生に話を聞きにいきませんか?どれだけこの噂が広がっているのかも知りたいですし」 「でもよぉ、もう帰っちまったんじゃねーか?」 「いや、5、6年生はもう一限授業があるからまだ校内にはいるだろうよ。けど、いまは授業中だろうから聞くなら授業が終わった後だな」 「じゃあそれまではどうしよっか?」 「この時間なら、池田先生の手は空いてるはずだぜ」 「じゃあまずは池田先生に聞き込み調査ですね!」 オレの言葉に、元気よく飛び出した彼等に苦笑をこぼしながらゆっくりと後を追いかける。乗り気ではなかった灰原も、どういう心境の変化か着いてくるようだ。灰原と扉を潜ったオレは、緩慢に教室内を振り返る。いつの間にか、みょうじの姿はそこになかった。 ← → back / top |