「こちら歩美!たった今、ターゲットが米花公園を通過しました!どうぞ!」 「こちら元太!ターゲットが交番を曲がって米花商店街に入ったぜ!」 「こちら光彦。商店街を歩くターゲットを追尾中です!以上!」 まるで、浮気調査さながら。コソコソと電柱の陰に身を隠し、ちいさなバッジ片手に報告し合うみっつのランドセルをオレは呆れを含んだ眼差しで見詰めていた。 「ったく、アイツら⋯」 如何せん、彼等の距離が近すぎるのだ。互いの姿も認識し合える位置で、果たして報告し合う必要があるのかは謎だが、あまりにも真剣な眼差しに指摘する気はとっくに失せていた。 それ以上に、黒澤の動向が気掛かりだ、というのも理由のひとつであったが。 「行くぞ、灰原」 「はいはい」 八百屋の前で、黒いランドセルが立ち止まった。それを視界に入れたまま、灰原に声を投げて、オレはゆっくりと足を忍ばせた。 ・ ・ ・ 「琉生くんって、放課後いつもなにしてるんだろう?」 きっかけは、そんな歩美のひと言だった。「まぁた黒澤は来ねーのかよぉ〜」と、先日から晴れて少年探偵団の一員となった(当人はひどく不本意そうだったが)黒澤の、あまりの集まりの悪さに、元太がぶつぶつと不満を零すなか。 おそらく歩美自身には特別な感情も深い意図も無かったのだろうが、正直、猫探しだのなんだのとこの平穏な日常に飽き飽きとしていたオレにとっちゃあ寝耳に水。まさに冷水をぶっかけられたような衝撃だった。 「言われてみれば⋯そうですね」 「この間も博士のお家誘っても来なかったもんね」 「せっかくカレー作ってあったってのに、勿体ねぇよな〜」 美味かったのにな、あのカレ〜。そう言って元太がまるまると張った太鼓のような腹を未練がましく撫ぜたのに、「まぁた食べ物のはなしですか」光彦がやれやれとばかりに肩を竦めてみせた。 「そういう光彦だってご飯おかわりしてたじゃねぇか」 「元太くんよりかはしてませんよ」 すこしだけ口論になりそうな雰囲気に、オイオイ、と若干呆れながら、「だったらよォ⋯」オレは火花を散らすふたりの間を割って入るように声を投げる。 「確かめてみっか?」 きょとり、と。不思議そうに瞬いた瞳がオレに向いた。揃って似た表情で首を傾げる3人に、にやりと口角を吊り上げる。 「確かめてみるって⋯なにをですか?」 「カレーか?」 「ばーろー。黒澤のことだよ。さっき歩美ちゃんが言ってたじゃねぇか」 おめーは一体なにを聞いてたんだと、真顔で宣う元太につい、胡乱な視線を向けてしまう。そもそも、黒澤についての言い出しっぺは元太であるのだが、彼の脳みそはすっかりカレーに置き換えられてしまったようだ。 「つまり、琉生くんが放課後なにをしているのか⋯ってことですよね?」 「確かめるっていっても、私たち琉生くんのお家知らないよ?」 反応の薄い元太と違い、ふたりはすぐにピンときたようだ。それでも、どうするのかまでは分からないようで、疑問符を浮かべるふたりにオレは不敵な笑みで応えた。 「あんだろ、取っておきの切り札が」 そう言って、おもむろに取り出した探偵バッジに真っ先に反応を示したのは灰原だった。「貴方ねぇ⋯」そう、じっとりと半目で睨む表情には明らかな非難が含まれている。 というのも、黒澤に(半ば無理矢理)手渡した探偵バッジには、トランシーバーと発信機の他に、盗聴器まで仕込んでいるからだった。これ幸い、と博士に頼み込む時からあまりいい顔はしていなかったが、それは未だに健在のようである。 博士に犯罪の片棒を担がせるのが嫌なのか、それとも黒澤の為なのかは定かではないが、正直、オレとしちゃあこの灰原の反応は意外だった。真相を探る為ならハッキングだのなんだの、手段を選ばないタイプだと思っていたからだ。 「怒るわよ、彼」 「だぁいじょうぶだって。後でちゃんと謝っからよ」 他人の、ましてやあれだけ疑っていた黒澤の事で咎めるとは珍しい。そんな事を思いながら、冷たい眼差しにからりと笑う。 「⋯本当、いい趣味してるわ」たっぷりと軽蔑を含んだ嫌味に、「バーロー。オレにそんな趣味ねぇよ」そう軽く応えながらオレはくるりとバッジを指先で弄った。 ◇ そんな経緯から、翌日、オレたちはさっそく行動に移した。 探偵バッジの機能を説明した時には、「いいんでしょうか⋯?」と若干負い目を感じている様子だった光彦たちも、黒澤の背中を追っているうちにすっかり忘れてしまったようで、キラキラと瞳を輝かせながら重大な任務を言い渡されたエリート探偵のような顔立ちで、華奢な背中をじっと見詰めている。 だいたい、聞いても応えない──否、聞く隙すら与えない黒澤が悪いのだ。不明瞭で不確かな言動ばかりを取るくせに、なんでもないフリをして肝心なことは精巧な面に隠しやがる。 オレだって、さすがに人のプライベートを覗く趣味はない。とはいえ、聞いたって素直に答えてくれないのなら、此方も此方でやり方を変えるしか手はないし、なにより、あの鉄の塊みたいな表情を少しでも崩せたら、と。自分でもよく分からない感情があの日以来、ずっと胃のあたりで渦巻いていた。 灰原も灰原で、気にはなっているのだろう。なんだかんだ言いつつも、「貴方たち、あんまり騒ぐと気付かれるわよ」と、時折彼等に注意を零しながら静かに後ろを歩いている。 「あっ!八百屋の前で止まりましたよ!」 「お婆さんと喋ってるみたい!」 黒澤が足を止めたのは、蘭も良く行く、八百屋の前だった。小さな店舗ながら、新鮮で、品揃えも豊富らしい。 夕飯の買い出し⋯にしては、すこし様子がおかしかった。店頭に並んだ野菜を見ることも無く、椅子に座った高齢のお婆さんとただ会話に興じている。 「⋯なにを話してるんでしょうか?」 光彦の言葉に、オレは眼鏡の頂部にあるボタンを押した。ジジッと微かな機械音の後、いつもの淡白な声が耳に滑り込んでくる。 『⋯どう⋯腰⋯⋯たか?』 『ええ⋯ちゃんに⋯もらって⋯随分⋯ねぇ』 「くそっ、上手く聞き取れねぇ⋯⋯」 途切れる音に、オレは思わず舌を打った。「距離があるせいね」ちゃっかり耳を近付けていた灰原が、涼し気な表情のまま言った。相変わらず、肝心なところで役に立たない発明である。 「あ!また移動したよ!」 「なんも買ってねぇじゃねぇか」 「逆に、なにか渡してましたね?」 不思議そうな声が、探偵バッジから聴こえる。黒澤は、お婆さんに透明な袋を手渡した後、そのまま何も買わずに八百屋から離れた。優しく手を振るお婆さんの横を、オレたちはそそくさと通り過ぎる。 「お店の中に入りましたよ!」 「せ・い・に・く・てん?⋯お肉屋さん?」 「すき焼きでもすんのかぁ?」 黒澤が次に向かったのは、精肉店だった。自動ドアが開き、華奢な背中が端然とした姿で入っていく。暫くそれを無言で見届けたあと、オレたちはそのままぴったりと店の壁に張り付いた。 「おっ、見ろよ!メンチカツ売ってんぜ!」「おい、ここに居んだろーが⋯⋯」元太の声が、バッジから響いた。ぐうぅぅと、腹の音さえ聞こえる距離にいるというのに、わざわざバッジを口元に当てる元太に、つい呆れた眼差しを向ける。 『⋯⋯奥さんの⋯⋯ですか?』 『ああ⋯⋯この間⋯⋯ありがとう』 不意に眼鏡から響いた声に、オレたちは揃って口を噤んだ。「ありがとう、って?」はっきりと聴こえた単語に、歩美が首を傾げる。 先程よりはマシだが、またもや断片的な会話だった。思わず、ぐぐっと前のめりになった身体を灰原が引き止める。横目に見れば、灰原がやんわりと首を振ってみせた。焦れったい、そう思いながらも仕方なく身体を引く。 「こっち来ますよ!!」 「やべ⋯っ」 光彦の言葉に、慌てて店の裏に身を隠した。その直後、自動ドアが開いた。壁からそっと顔を覗かせれば、黒いランドセルがすたすたと歩いていくのが見えた。やはり、その手にはなにもぶら下げていない。 「何してるのかな?」 「ただの挨拶回り⋯ですかね?」 「またなにか手渡してたわよ」 「追い掛けるぞ!」 すぐさま走り出したオレの後ろを、複数の足音が付いてくる。そのまま、付かず離れずの距離を保ち、時折、物陰に身を隠しながら後を追う。この時点で、僅かにあった罪悪感などすっかり抜け落ちていた。ただ気になる。それだけだ。 突如、黒澤が立ち止まった。 「待って」──動き出そうとした歩美たちを、灰原が止める。「どうしたの?」「しっ!」きょとんとした歩美に、灰原が唇に人差し指を押し当てた。 黒澤の前にあるのは「ハンコ」と書かれた看板だった。確か、もう随分と前から分厚いシャッターが下りた店だ。 「江戸川くん」 「わーってる」 灰原に言われる前に、ボタンを押す。ジジっ、と機械の音。それから少し間を置いて、黒澤の冷淡な声が届く。 『──、⋯⋯る?』 『⋯⋯そう』 「誰と、喋ってんだ⋯?」 ぞくり、と背中に妙な汗が流れた。当然、黒澤以外に人影はない。それでも確かに動いた唇に、オレたちの間を奇妙な空気が通り抜ける。 「追い掛けましょう」 静かな声が落ちた。見れば、黒澤はまた歩き出していた。「もしかして幽霊、かな⋯⋯?」「そ、そんな訳ないじゃないですか!変なこと言わないでくださいよ⋯!」光彦たちの会話を耳に、オレはちらりと灰原を見た。 なんか、やけに冷静すぎやしねぇか⋯?そんな疑問が首を擡げる。 今度は角のタバコ屋で、黒澤が足を止めた。「タバコでも買うのかァ?」「んなわけねぇだろ」店台に居たお爺さんと、なにやら話をしている。 『体調──⋯ですか?』 『あれから─⋯⋯助かったよ』 先程よりも、ずっと鮮明に聞こえた。更に、一歩近寄る。 『いつも悪いねぇ。良かったらこれ持ってきな』 『いえ、好きでやってるだけなんで』 『親父さんにもお礼を伝えておくれ』 『はい⋯。じゃあ、これ。いつも通り、朝と夜に一錠ずつ飲んで下さいね』 『どうもありがとう。またいつでも遊びにおいでよ』 『はい、また伺います』 それじゃあ、あまり無理しないでくださいね。──そう言って、その場を離れた黒澤にオレたちは思わず顔を見交わせた。「そういえば、黒澤くんの実家は病院だったわね」さらりと言った灰原に、そういやぁそうだった⋯──ふっと肩の力が抜けた感覚がした。まったく拍子抜けである。 「なんだよぉ、ただのお使いかよぉ〜」 「だから放課後すぐ帰ってたんですね!」 「お父さんのお使いしてたんだ!」 「「「あ。」」」───不意に、はしゃぐ彼らの声が揃った。一瞬にしてやる気の削げたオレの足元に、影が落ちる。「あ?どうした、おめーら⋯⋯」まるまると目を見開いた歩美たちの顔に、首を傾げながら振り返って──「げっ。」ひくりと頬が引き攣った。 「⋯で?満足?」 黒澤が、そこに居た。いつの間に移動したのか、「いや、これは⋯」冷淡な眼差しに、つい視線を彷徨わせる。 「てーか⋯いつから気付いて⋯」 『てーか⋯いつから気付いて⋯』 ──反復して聞こえる声に、オレは慌てて眼鏡の電源を切った。「ア、アハハハ⋯」笑って誤魔化しても、もう遅い。すっと眇められた眼差しに、つぅと汗が背中を伝う。 「⋯へぇ。そういう趣味?」 「ち、違ぇよ!だ、だいたいおめーがなんも言わねぇから⋯!」 「なにそれ。俺のせいってこと?」 整った眉が、僅かに寄った。そのまま、おもむろにポケットから取り出した探偵バッチを、一度、指先で転がしてみせる。 「まあ、なんでもいいけど⋯」 そう言って、黒澤が探偵バッジをこちらに投げた。ポンっと弧を描いて飛んできたバッジを、反射的に掴む。 「信用がないのは、お互い様だし」 「は⋯⋯、」 けろりと言い放った言葉に、オレはぱちりと瞠目した。なんの色も宿していない、やけに綺麗な瞳だけが視界に映る。 「怒るわよ、彼」──ふと、昨日の灰原の言葉が頭に過った。こんなの、怒る以前の問題だ。「関わるな」でもなく、「信用しろ」でもなく、そもそも同じ土俵に立ってすらいないのだ。 一言で言うなれば「無関心」──その言葉がいちばんしっくりくるような気がして、微かに奥歯が音を立てた。 「ソレ、返すから。じゃ、また学校で」 それだけを言うと、黒澤はあっさりと踵を返した。ひらりと後ろ手に振った手のひらを、オレは咄嗟に掴んでいた。 「──おい!」 「⋯なに?」 黒澤が、肩越しに振り返る。冷めた眼差しが、オレを射抜いた。 「わ、」 「⋯わ?」 「わ、悪かったなァ!!」 「はぁ?」 今度こそ、黒澤の眉がくしゃりと歪んだ。咄嗟に出た言葉とはいえ、精巧な表情がようやく崩れた事に、オレは僅かに肩の力が抜けたような気分だった。 「⋯いや、別に怒ってないけど」 なに言ってんだこいつ。黒澤は、そんな表情を浮かべていた。いや、それはオレ自身が思ってるからこそ、そう見えるのかもしれない。 「つ、つーか!そもそもおめーが紛らわしいことすっからだろーが!」 「結局それかよ。俺にも謝れって?」 「そうは言ってねぇだろ!あー⋯つまり、俺が言いてぇのは⋯──」 「少しくらい怒ったらどう?──でしょう?」 するりと滑り込んできた声に、「⋯へ?」──思わず、間の抜けた声が口から零れた。いつの間にか、灰原が隣に立っていた。その後ろには、歩美たちがそわそわと順番にスタンバっている。 「歩美も、ごめんなさい⋯」ぽつりと歩美が言った。固まったままのオレを置き去りに、そのまま、するすると会話が進んでいく。 「いや、だから。怒るもなにも⋯──」 「勝手に尾行したんですから、琉生くんが怒るのも当然ですよね⋯⋯」 「琉生、悪かったなァ⋯」 「ごめんね⋯⋯」 「ちょ、聞いてる???」 しょんぼりと肩を落とす姿に、黒澤が困ったように目尻を下げた。おい、対応違いすぎんだろ。明らかにオレの時とは違う態度に、こめかみがぴくりと引き攣る。 「でもね。歩美たち、琉生くんと、もっと仲良くなりたいと思って」 「そうです!決して、困らせようとか、陥れようとしたとかじゃなくてですね!ただ、君のことを知りたくて⋯!」 「そうだぜ!だって、俺たち友達だろ??」 にっかりとした笑みに、黒澤が静かに瞬いた。面食らったというよりも、もっと淡々と呑み込むような仕草だった。 ──ったく、言いたいことぜんぶ言っちまいやがって⋯。 くしゃりと、前髪に手を添える。とはいえきっと、オレが言ってもなにひとつ届きはしないだろう。そもそも、オレの「知りたい」はそんな純粋なものでは無いし、関係だってせいぜいクラスメイトの位置である。 なにより、こうまでして彼を引き留める理由を、オレ自身、さっぱり理解していないのだから、そんな奴がなにを言ったところで火に油を注ぐだけ。 むしろ、関わらない為の理由ならいくらでも出てくるこの現状が、いっそ皮肉のようにも思えた。 「⋯⋯はぁ。」 黒澤の息を吐く音が、やけに大きく聴こえた。それから、徐に小さな手のひらが突き出される。その細い指先を無言で見下ろして、オレは困惑に首を捻った。 「⋯⋯⋯なんだよ」 「バッジ」 「あ?」 たった一言。それだけを投げて閉じた唇に、オレは眉を顰めた。おめーが返すっつったんじゃねぇか。そう胸中で毒づきながらも、手のひらにバッジを置いてやる。「それじゃない」すると、すかさず否定が飛んできた。カチンと、頭のどこかで音が鳴る。 「あぁ?ちゃんとおめーのだよ」 「それは返すって言ったじゃん」 「はぁ?なに訳わかんねぇこと⋯」 「もう一個、持ってるだろ」 オレは、思わず口を閉じた。当然、あるにはある。無言で見下ろす、色の薄い瞳を見詰め返しながら、オレはひとつ息を吐いた。 「ったく。そういうことかよ──⋯ほら」 オレはポケットから探偵バッジを取り出し、黒澤の手にわざと放るように渡した。──正真正銘、江戸川コナン用の探偵バッジだ。 ぱしっとキャッチしたソレを、一度、くるりと目前に翳してから、黒澤がオレに視線を寄越す。 「当たり前だろ。新しいの持ってこられたって、どんな機能付けられてるか分かんないし」 「ハハ⋯⋯警戒心強すぎだろ⋯」 ほんとに、コイツ小学生かァ? 灰原並の警戒心に、オレは思わず頬を引き攣らせた。別の物を──しかも、オレが普段使用してる物を──要求してくる辺り、ただの小学生とは思えない。 「じゃ。用は済んだし、帰るから」そう言って、黒澤は今度こそ踵を返した。「また明日ね!琉生くん!」叫んだ歩美に、ひらりと手を振るだけで応える。その手の中にはしっかりと探偵バッジが握られていた。 「結局、怒らなかったわね、彼」 「⋯⋯あぁ」 それを視界に捉えながら、灰原の言葉に静かに頷く。灰原の言う通り、嫌がる素振りはしても、結果、彼は一度も怒らなかった。歩美たちが素直に謝ったおかげかもしれないが、それでも普通なら文句のひとつくらいは飛ぶだろう。つまり、それだけ冷淡な人間か、あるいは極端に関心が無いか。 元々、小学生にしてはやけ達観していると思っていたが、想像以上である。 まあ、とはいえなんだかんだ言いつつ、探偵バッジを受け取ったのだ。オレでなくとも、少なからず彼らへの情はあるのかもしれない。 「よーし!明日からも琉生くんともっと仲良くなれるように頑張ろうね!」 「はい!」 「おー!」 そんなことを思いながら、オレは小さくなる背中に目を眇めた。結局、尾行して分かった事といえば、親のお使いをしてたということだけである。 「おーい!おめーら!そろそろ帰んぞ〜」 やれやれと。やけに疲れた気分のまま、オレは彼らを促した。「腹減ったなぁ〜」「晩御飯なんだろう!」「はやく帰りましょう!」そんな弾んだ声に誘われるように、歩き出す。──わずかな引っ掛かりを残したまま。 ハンコ屋の前で立ち止まった黒澤のことをオレが思い出すのは、まだずっと後の話だ。 ← → back / top |