祟り神と狐9

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三吉三 / 家 / 人外パロ / 転生

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 目の前で、ぶうん、と車が唸って行った。刑部の首が、埋まっているというそこを踏みつけて。そしてそこは家康も、先ほど踏んで歩いた場所である。
 ぞっ、と背中の毛が一斉に逆立った。
 表情を無くして道路を見つめる家康に、三成は気づいていないのか、気づいていても気にしていないのか、まったく変わらぬ調子で話を続けている。
「敵は刑部の首を探したが、とうとう見つからなかった。そのうち敵も死んで、ここにも人が住むようになった。人は家を建てて、道を作った。辻というのは、ああいう、道と道が交わっているところのことだ」
 辻には善くないものが溜まりやすい、と三成は何でもないことのように言う。
「刑部の首はそういうものを食べて、代わりに不幸を吐き出した。それでこの一帯では不幸が続いたので、道を一つ潰して社を建て、辻神として祀ることにしたそうだ」
「それじゃあ」
 刑部は、悪い神なのか。そう言おうとした家康の言葉は喉でつかえて、出てくることはなかった。刑部が悪い神であるなら、その神に仕える狐も悪い狐なのだろうか。
 三成の表情は先からぴくりとも変わらずにいて、良いものとも悪いものとも、たかだか10年やそこら生きただけの家康には、判断がつかなかった。
「……なんだ?」
 怪訝な顔でこちらを覗き込む三成に、家康はぶるぶると首を振った。
「なんでも……ない」
「貴様のその顔は、なんでもない顔ではない」
 ぴしゃりと言って、三成は不意に右手を突き出した。とまどう家康が見つめ返すと、手を出せと言っている! そう怒鳴り返される。
 そんなこと、一言も言っていないじゃないか、というようないたってまともな反論も、三成には通用しない気がして、家康は黙って左手を出した。それをぐいと引き寄せ、ぎゅうと三成が両手で包むようにしたとたんに、握ったこぶしの隙間から、青白い光があふれだす。驚いて手を開こうとした家康を、再び三成は怒鳴り付けた。
「開くな!」
 慌てて左手を握り直した家康だが、けれどこの青い光は一体何物なのだろう。嫌な感じはしないものの、不思議なことにはちがいない。
 もちろん、説明をしてくれる三成でもない。
「今日はまだ早いからそれを持って、さっさと帰れ」

 それがあの晩、家康が見た常夜灯の明かりであり、いわゆる狐火だと気づいたのは、家に帰って、そっと手を開いた後だった。

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2011/03/09

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