祟り神と狐8

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三吉三 / 家 / 人外パロ / 転生

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「なんだ、刑部に用か」
 そう言う三成が少しだけ、残念そうに見えたのは、家康の願望がなせるわざだろうか。
 実際の三成はぴくりとも表情を動かさないまま、刑部なら本殿に籠っている、と事もなげに言った。
「昼のうちは眠っていて、出てくることはない。刑部は陽光が嫌いなのだ」
 そう言って、眩しげに目を細める。
「みつなり、お前は太陽が嫌いか?」
「私か? 私は好きでも嫌いでもない。ただ、刑部が月の方が好きだと言うから、私も月の方が好ましい」
 確かに、と家康は思った。
 確かにこの男の美しさは、太陽よりも月に近いものがある。白くて、細くて、ひんやりとしている。三成はまるで三日月に似ていた。
 きっとあの声もそう思って、そんなことを言ったのだろう。そう思えば、家康の胸をちりちりと焼くものがあった。
「刑部に会って、何が聞きたい」
 いつの間にか、人の姿に戻っていた三成が、上の方から問いかけた。
「下らない用ならば、斬滅してやる」
「ざんめつ?」
 聞きなれない言葉である。けれど、聞いたことがあるような言葉である。
 三成と言葉を交わすなかで起きる、何度目かのデ・ジャヴに首をひねりながら、家康はいいや、と手を振った。
「ぎょうぶには用はないんだ。ワシはお前に会いに来たんだからな」
「ふうん」
 気のない返事をもらす三成に、くじけそうになりながらも、家康は必死で話題を探した。そうだ、質問。
「なぁ、みつなり。ぎょうぶは辻神だと言っていたな。辻神とはなんなんだ?」
「貴様、そんなことも知らんのか」
 ふん、と馬鹿にしたように鼻を鳴らす三成は、それでも4つの尻尾をゆらゆらと揺らしながら、自慢するように言葉を続けた。
「刑部はな、元は人間だったのだ。戦に負けて、もう死ぬしかないと思った。それでも、敵に首を晒すのは耐えられない。敵は刑部の仇だった」
 刑部は己の首をかき切ると、部下にそれを誰にもわからぬ場所にこっそりと埋めるよう命じたそうだ。そうして、埋めたのが。
「そこだ」
 三成が指したのは、鳥居の向こう、T字路のちょうど真ん中だった。

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2011/03/06

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