祟り神と狐10

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三吉三 / 家 / 人外パロ / 転生

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 家康は悩んでいた。
 刑部に感じたあの嫌な気持ちは、刑部が悪い神だからだったのだ。不幸を吐き出す、その同じ口から発される声を、好きになれるはずがなかった。
 では、三成は? 三成はどうなんだ?
 そこでまた、家康の思考は堂々巡りを繰り返す。三成は刑部の狐である。三成自身がそう言った。刑部、と主の名を呼ぶたびに、三成はかすかに喜んでいるような気配を見せた。いえやす、と家康の名を呼ぶ時とは大違いである。三成の「いえやす」は家康を浮かれさせるとともに、ざわざわとした不安を感じさせた。まるで心の底に沈んだ、目に見えない嫌な記憶を呼び起こす、そんなような。
 けれどそれでも家康は三成のことは嫌いではない。いや、それどころか好きだと言える。三成の方でも、家康を嫌いなわけではないだろう。嫌いならば、ああして狐火を渡してくることもないはずだ。家康が無事に家まで帰りつけるか、気にかける必要なんて、ないはずなのだ。
 それでも三成は刑部の狐で、つまり、刑部の仲間なのである。
 結局のところ、考えはそこに落ち込んで、家康は立ち止まることしかできなかった。自分が三成に会いたいのか、会いたくないのか、それさえもわからない。
 もやもやとした気持ちを抱えて、家康は一週間を過ごした。

「また来たのか」
「……ああ」
 呆れたようにそう言った三成の表情は、一週間前とちっとも変わっていなかった。この一週間、悩んだ家康が馬鹿らしく思えるほど、三成は平然と、無表情で家康を見下ろしている。長い前髪に隠れされた眉間には、しわの一本や二本、もしかしたら刻まれているのかもしれないけれど、あいにく家康には見えなかった。
「みつなりは……ワシが来なくて、さびしかったか?」
 にへら、と自分でも意識しないまま、笑ったような表情を作って家康はたずねた。それは生まれてからの十何年間で得た、家康の処世術の一つだったのだが、この時は、そうと意識することもなかった。
 そんな、無意識の笑みだったのに。
「……貴様は私を不快にさせる為に来たのか?」
 三成の切れ長の瞳がさらにつり上がって、家康をぎっと睨み付ける。白い手が左右両方から伸びてきて、家康のほほをひっつかむと、乱暴にぐい、と引き下げる。
「私の前で偽るな! 不愉快だ」
 吐き捨てるようにそう怒鳴り付けると、三成は手を離してくるりと家康に背を向けた。一歩、二歩と大股で社へと歩いて行く三成を、ほほが痛むのも忘れて見送っていた家康だったが、このまま三成に会えなくなるのではないか、という不安が頭を過ぎたとたん、口から言葉が飛び出していた。
「みつなり! 待ってくれ!」
 追いかけて、手を伸ばす。
「お願いだ。ワシと一緒に、行こう、みつなり!」
 三成の腰の辺りに抱きつきながら、家康は言った。

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2011/03/15

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