祟り神と狐13
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三吉三 / 家 / 人外パロ / 転生
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篠突くばかりに雨の降る、そんな夕刻だった。
家康は背の高い、幅の広い男と向き合っていた。男の顔は影になってよく見えない。名も知らない、見たこともない男だ。
けれども不思議なことに、家康は目の前の男を殺さなければならないことだけはわかっていた。
体の脇に下げた両手の拳に、力を込める。
「……」
「……」
男がなにか言う。それに答えて、家康もなにかを口にする。ずさり、と男が足を引き、土が擦れる音がする。家康もまた左足をわずかに後ろへ引き、拳を胸の前に構えた。
「ワシは……っ!」
「太閤を殺したように、われも殺すつもりであったか」
はっと目を見開いた家康は、そうしてやっと自分が目を閉じていたことに気がついた。ぱちぱちと何回か、瞬きを繰り返す。目の前にいるのは背の高い屈強そうな男ではなく、折れそうに細い、全身を真っ白な包帯で包んだ男である。
「刑部……今のは、なんなんだ?」
強く握りしめたままだった拳をほどきながら、家康は問う。寒くもないのに体がぶるぶると震えていた。
「今のは、お前が見せたのか? お前はワシを知っているのか?!」
恐怖もなにもかもが吹き飛んで、家康は思わず刑部へと手を伸ばしていた。その手は、するり、とたやすく避けられた。それでも、まるで蝶のような動きを見せた刑部は、いささか驚いた様子で家康を見返し、
「あァ」
なにかを得心したように、一つ、頷く。
「ぬしは知らぬか、思い出せぬか。無理もない。ぬしはソレを選んだゆえにな」
「一体なんの話をしているんだ? それ、とはなんなんだ?!」
刑部は答えない。ただ黙って家康を見下ろしている。
「刑部! 刑部! 教えてくれ、刑部!」
家康はもう手を伸ばさなかった。どうやっても刑部には届かないだろうと思った。けれど、もし、その手を握る気があるならば、刑部の肌に届くだろう、とも。
自分の想像にぞっとして、家康は慌てて首を振る。
そんなことはしたくない。そんなことは、望んでいない。
「……われはぬしを、憐れまぬ」
ぽつり、とこぼした刑部の言葉は、先程までと同じようで、しかし少し違っていた。
「ぬしはわれの仇ゆえ。三成の仇ゆえ」
カタキ、と口にしながらも、刑部の口調は優しかった。その優しさの理由など家康はわからないが、刑部が口にした通り、それは憐れみではないような気がした。どこか、昔の友に語りかけるような。
「けれども、ぬしが正しかった。ぬしが言うた通り、ぬしが築いた世の中で、長きにわたって人は栄えた。われが、どんなに呪おうとも」
アァ、と刑部は息を吐き出す。
「ぬしが憎くて、ならぬなァ」
やはり、声は優しいままだった。
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2011/03/27
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