蟷螂3

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吉三 / 現代パロ / 転生ネタ / 高校生 / 女体化

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「刑部っ!」
 ――生まれ変わっても、一瞬たりとて忘れたことのなかった声が、耳を打った。
 間違える訳がない。この17年間、吉継はこの声だけを待っていたのだ。記憶の中にあるのよりは、高く、まろやかな響きを持っているが、この声に間違いない。
 われの凶王。哀れで愛しい、唯一の友。
 友のたったの一言、一声で、吉継の思考は押し寄せる感情の渦に飲み込まれる。戸惑い、そして圧倒的な喜び。それから、不安。
 あれほどに、置いて逝くなとすがった彼を、吉継は残して一人、逝ってしまった。彼を生かす為に張り巡らせた策も、役に立ちはしなかった。凶星も降ることはなく、結局、一番愛しい首を、むざむざ徳川に渡してやる羽目になった。
 彼の為に、前世の吉継が出来たこととは何だろう。
 そう思えば、とっさに振り向くことは出来なかった。体は震え、目は友の姿をとらえようと、真っ先に声に反応したというのに。
 けれども、そんな吉継の思惑など、いとも鮮やかに踏み越えてしまえるのが、吉継の友――石田三成という、男だった。
「刑部! 刑部刑部刑部刑部刑部っ!」
 どん、と斜め前から与えられる衝撃と、連呼される己の呼び名に、吉継はあえいだ。
 幼い頃、まだお互いが小姓として秀吉に仕えていた時を思い出させる、暖かく柔らかい体が、今この時も吉継の名を呼んでいる。込められた親愛の情が、耳から際限なく流れ込み、ただ名前を呼ばれているだけだというのに苦しくてならない。
「み、つ……」
 思わず手を伸ばし、触れようとした。その時だった。
「三成……三成なのか!?」
 家康の大声に、吉継はさっと体を強ばらせると、先ほどまで触れるのさえ躊躇していた、小さな体を強く抱き込んだ。腕の中で、小さく息を飲む声が聞こえたが、今はようやく出会えた友を守ることが最優先である。
「退きやれ、徳川! 今生はぬしの好きにはさせぬ!」
 ぐっ、と目に力を込めて睨みつければ、家康は、戸惑ったようだった。つい何分か前まで、友だと思っていた男が豹変したのだ、無理もあるまい。その他、幸村や政宗も、信じられない物を見るような目をして吉継と、その腕の中にすっぽりと収まった三成とを見比べていた。
 ただ一人、元就だけが、常と変わらぬ顔で、ぐるり、と一行を見渡すと、口を開いた。
「そなたら、いつまで見世物になっている気だ? 行くぞ」
 ふん、と鼻を鳴らして元就がきびすを返すと、戸惑いつつも元親がそれに続いた。そして、政宗、幸村、と続き、
「わしらも、行く、か」
 まるで、傷ついたような顔で笑って見せた家康が、くるりと背を向け、歩いて行く。
 行かないという、選択肢を選ぶことも吉継は出来た。この先、彼らとの関係がどれほどぎくしゃくしようとも、三成が見つかった今では何の不便も感じない。
 けれど、いつの間にか腕の中から顔をのぞかせていた三成が、大丈夫だ、と真面目な顔をして言うから。
「刑部は私が守る。だから、大丈夫だ」
 それだから、吉継はもう何も言えなくなってしまったのだ。

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2011/01/24

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