蟷螂4

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吉三 / 現代パロ / 転生ネタ / 高校生 / 女体化

※大谷さんと幸村が義親子設定。なお、大谷さんの娘の名前は安岐です。

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 遅れてファーストフード店へと入って来た二人を見たとたん、政宗と元親が揃ってぎょっと目をむいた。二人が何をそう驚いているかなど、吉継とて言われずとも理解している。しかし、だからといって繋いだ手を離す気にはなれなかった。何百年ぶりかに手に入れたぬくもりを、そうやすやすと手離してやる義理はない。そ知らぬ振りをして、席に着いた。
 吉継と三成の為に残されていたのは、幸村と元親の間に空けられた二席だった。テーブルをはさんで向かいには、政宗と元就に左右をはさまれた家康が座っている。今までのことを思えば、罵りの一つも飛んでこようかと思ったが、それなりに気を使われているらしい。それともこれは、三成に対する配慮だろうか。どちらにしろ、ありがたい。
 元親の側に三成を押し込むと、手を握ったまま吉継は三成に声をかけた。
「三成、何か飲みやるか?」
「私はいらん。貴様こそ何か買ってこなくて良いのか」
「ぬしを置いてはどこにも行けぬわ」
 ヒヒ、と爛れてはいない筈の喉から、掠れたような笑いがもれる。直したつもりで直っていなかった癖に、自然と笑みが深くなった。そんな吉継を見つめ返す三成の顔にも、うっすらと笑みが浮かんでいる。
「色惚けも大概にせよ、大谷」
 ぴしゃり、とその空気を叩き割ったのは元就だった。
 口出しされたことに気を悪くしたのか、むっとした様子の三成を、良い良い、と慣れた調子でなだめながら、吉継はやっと席についた。とたんに、ぴたり、と寄せられる体温に、何百年経とうと吉継の心はふわりと緩んだ。
「……本当に……義父上殿でござりますか」
 誰もが次に何を言おうかと、逡巡している中、口を開いたのは吉継の隣に座る幸村である。吉継は三成から目を離し、幸村の眸をじっ、と覗き込んだ。臆することなく見つめ返してくる幸村の眸は、四百年前となんら変わりはなかった。
 こやつは最後まで、徳川を敵に回して散ったのだったな。
 正直に言えば、吉継はそこまでの期待を持って幸村に己の娘をめあわせたのではなかった。幸村の何かを買った訳でも、ましてや信じた訳でもない。
 それでも結果的に、幸村は吉継を裏切らなかった。豊臣を――三成を、裏切らなかった。
 吉継の目が、柔らかく形を崩す。
「そうよ、婿殿。久しゅうな」
「ほんに……お久しゅうござりまする、義父上殿」
 つられたように、幸村も目を細めて笑う。
「安岐はよく仕えたか」
「某にはもったいない程の、嫁御でござりました」
 今まで正体を隠していたにもかかわらず、それに関して責める言葉の一つも吐かずに、深々と頭を下げた前世の義息子の肩を、吉継は優しく撫でてやった。
 それは、三成についてくれた事に対する、何百年か越しの感謝の現れであり、血の繋がらない息子に対する、信頼と親愛の現れであった。

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2011/01/25

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