蟷螂5

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吉三 / 現代パロ / 転生ネタ / 高校生 / 女体化

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「石田殿も、お久しゅうござる」
「ああ、真田も息災そうでなによりだ」
 続けて三成に対しても頭を下げた幸村に、三成はわざわざ吉継の陰から顔を出して、柔らかい表情を見せた。前世の三成がこうした顔を自分以外の人間に向けたのはいつが最後だったか、少なくとも太閤が死んでからは、吉継には覚えがない。
 死に行くばかりの己が、三成の唯一人として残ってしまったことに、哀れみとを感じていた吉継だったが、今の三成は笑えるのか、と思えば、それもまた、寂しい気がした。
「ちょ……Wait! お前ら何普通に会話してんだよ!?」
 政宗の慌てたような声に、吉継は見つめすぎていた視線を急いで引き剥がす。騒音の元を見れば、信じられないものを見るような目をして、独眼竜が三成と幸村を見比べていた。幸村がどんな視線にさらされようと、吉継は構わないが、事が三成になるとそうはいかない。
 結局のところ、義理の親子といえば、他人も同じである。
「開きすぎて、一つしかない目を落とさぬよう、気をつけよ。なァ、独眼竜」
「Shit! この眼帯は伊達なんだよ! って、その癪に障る物言い、大谷吉継に間違いねぇな」
 政宗はハッ、と鋭く息を吐くと、わざわざ音を立てて椅子に座り直した。分かりにくい態度ではあるが、今の状況を受け入れるつもりらしい。
「まぁ……アンタが今まで黙ってた事の理由なんざ、誰でもわかるからな」
「……バレぬものなら、我もこやつらと、かかわり合いになどなりたくなかったわ」
 ぼそり、と呟いた元就の声を拾うものは誰もいなかった。
 元就を初めてそうだと見抜いたのは元親だった。元就は、策の発覚した後に、元親に殺されたのだと聞く。吉継は表向き、全くの別人というフリをしていたから、詳しい話は知らない。知っているのは、歴史書が語る、遠い昔の事柄だけだ。
「しかし、某まったく気がつきませなんだ!」
「そりゃあ、気づく方がすげぇんだよ。この顔で、しゃべり方まで変えられちゃあ、気づく訳ねーじゃねぇか」
 一瞬、しんみりとした場を、空気を読まない幸村の大声がまたしても打ち破った。呆れたように突っ込む政宗の声に、どこか安堵が満ちている。
「本当に、良かった」
 ふ、とすぐ側で聞こえた声に、吉継は耳をそばだてた。俯きがちにする三成の、白いうなじだけが目に入る。
 生まれ変わっても、この色の白さは変わらないようだった。
「今生の刑部が、元気そうで、本当に、良かった」
 誰もが口をつぐみ、三成の言葉に耳を傾けていたのは、この中で最も前世の傷が深いのが、三成であると、わかっていたからかも知れない。
 いつの間にかほどかれていた腕は、膝の上でぎゅっと握りしめられていた。吉継はその右手を取ると、優しく、さすってやった。
「われはこの通り、健康よ、ケンコウ。それにな、三成。あの病は、今や治る病よ。早に気づけば、跡も残らぬ」
 ぬしは、と吉継は聞いた。
「ぬしは、幸せ、か?」

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2011/01/29

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