蟷螂6

*

吉三 / 現代パロ / 転生ネタ / 高校生 / 女体化

*

 顔を上げた三成は、吉継が何を言ったのか、わからないようだった。
 無防備な顔でこちらを見返してくる三成を見ながら、無理もない、と吉継は思う。前世での三成は、まさしく美しい不幸そのものだった。
 だからこそ不意に浮かべられた、心とろかすような笑みに、一瞬、息がつまる思いがする。笑いながら三成は、重ねていた手を強く握り直した。ああ、と頷き、吉継にもたれかかる。
「私は幸せだ。貴様にも、こうして再び……」
「ちょっと待ったぁぁぁ! テメェら、なんで誰も一番重要なことに突っ込まねぇんだ! 明らかにおかしいだろうがよ!」
 それこそ一番大事な言葉をさえぎった元親には、不幸が降り注ぐべきであろう。癖、とでも呼ぶべきか、ついつい指先がぴくりと動いた。ついで聞こえる、コン、という軽い衝撃音と、痛ぇ、という野太い悲鳴。
「大谷、貴様のその技はまだ使えたのか」
 不思議そうにいう元就の指が、未開封のミルクを拾い上げる。先ほどの音の正体はこれらしい。
「われもこの身になってからは初めてよ。不思議よなァ」
 子どもの頭蓋程の大きさの数珠を、幾つも自在に操れていた前世でさえ、そのからくりはわからなかった。身の不自由さと引き換えに得た力か、とも思っていたが、今や吉継の体は健康そのもの。動かせたのが、小さなミルク一つだとはいえ、それだけでも驚嘆するには十分である。
 ハテ、どんなカラクリであろうな、とニタリ、笑ってみせていると、ようやく立ち直ったのか、わずかに赤くなった額をこすりながら、元親が身を起こした。
「だからな、なんでテメェらは、目の前の事実から目をそらそうとするんだよ……この! 石田を見て! 何か言うことがあるだろーがっ!」
「何の事かさっぱりわからぬわ」
「某もでござる」
「Hum...俺にもまったく理解出来ねェ」
 元親の必死の叫びもむなしく、三者三様、ばっさりと切り捨てられている。おそらく三人ともわかってはいるだろうが、三成を気づかって、自身から指摘することをしないのであろう。
 ……いや、単に長曾我部をからかっているだけか、と吉継は思い直した。
 元就の目が明らかに楽しんでいた。
「えーっと……元親が言いたいのは……三成がおなごだ、ということか?」
 相も変わらず、要らぬ事ばかり言う口よ。
 おずおずと口を差し挟んだ家康に、一斉に三対の瞳から鋭い視線が放たれた。
「おおおおなご!? 石田殿はおなごでござったのか!?」
 どうやら幸村に至っては、本気で今の三成の変化に気づいていなかったらしい。あわあわと、今さらながらに騒ぎ出した幸村を、政宗が慌ててなだめている。
 この二人は放っておくことにして、問題は三成である。男であった記憶のあるまま、女として生きていかねばならぬことに、違和感を覚えぬ訳がない。その上、それを他ならぬ仇敵に指摘されたのである。
 ひたすらに己を追い込んで、それでも討てなかった前世の仇。まして今や女の身で、討てる可能性はないに等しい。
 それでも、三成なら。石田三成という人間ならば、そんな逆境はなんとしてでも克服しようとするだろうと、吉継は思っていた。三成は人一倍、負けん気が強い男だった。
「確かに。この体は女の体だ」
 だからこそ、なんでもないことのように、ただ静かにうなずく三成は。

 ……吉継には、まるでまったく知らない人間のように見えたのだ。

*

2011/01/31

*

+