片恋7

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親就 / 転生 / ほの暗い

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 その晩は寿司の出前を取った。さいわい、姉が長曾我部を預ける際にいくらか置いていったので、それぐらいの贅沢をする余裕はある。
 むしろ気にかけるべきは、明日のことだった。平日である月曜日、長曾我部は学校を休むらしいが、あいにく元就は午後から大学の講義がある。必修の講義であるので、休むことは出来れば避けたい。二年目を迎えた未だに、元就は大学に通うことに何の意味も見出だせずにいたが、それでも入った以上は下手な成績を残す訳にはいかないという意識はあった。
「長曾我部」
「はい」
「明日、我は昼から学校に行かねばならぬ」
 学生なのだ。当たり前のことである。それを改めて言わねばならぬところに、理不尽にも元就は苛つきを感じる。
「わたし、お留守番、できます……」
 むっすりと黙った元就が次の言葉を言う前に、長曾我部も察したのであろう、ぼそぼそとなんとも頼りない言葉をこぼした。
「そうか。ならばよい」
 しかしながら、頼もしかろうがなかろうが、留守番ぐらいはしてもらわねば困る。元就は当たり前といったように頷いた。
「我のおらぬ間は火は使うでないぞ。腹が減った時は冷蔵庫の中を好きに食べよ。菓子は食器棚の下に入っておるから、それも食べてよい。それから、誰か訪ねて来ても、無視をして構わぬ。外にはけして出るでない」
 そうして、ふと、この部屋には子どもが楽しめるような、テレビも、ゲームも、ないことに気づく。元就自身が子どもの頃、それらの必要性をかけらも感じなかったから、一人暮らしを始めてからもそれらを買い求めることはなかったが、しかし、普通の――前世の記憶などない子どもにとっては、元就の部屋はひどくつまらない場所に違いなかった。それが元で外へ出られても、困る。
「暇ならば、部屋にある本はどれでも読んでよい。ゆえに外へは絶対に出るでないぞ」
 こくり、と白い頭が上下するのを見て、元就は満足した。本だけは、溢れるようにある部屋である。これだけあれば、外へ出る気も起きぬだろう。
 この中に、はたして子どもが読むような本があるか、は別として。

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2011/09/25

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