片恋13

*

親就 / 転生 / ほの暗い

*

 ――毛利元就ッ、永遠の孤独の底で泣いて後悔しやがれっ!

 後悔などしない。後悔するようなことなど、何もなかった。安芸の為に、毛利家の為に、そうして、それだけの為に生きることの、一体何を後悔するというのか。
 長曾我部のあれは所詮、感情に左右される愚かな郷愁であり、感傷による八つ当たりに過ぎない。わかっている。あんな言葉に何の意味もないことなど。わかっている、筈だった。
「毛利」
 青い瞳が真っ直ぐに向けられる。瀬戸内の海と同じ色の瞳。あの瞳が憎しみに歪むところを、元就はこの目ではっきりと見た。
「毛利は」
「……ぶな」
 それが、最期の光景だった。
「我の名を呼ぶなっ!」
 自分より一回りも二回りも小さな体がびくんと跳ねた。何故そんな事を言われるのか、わからないという顔で元就を見る。まるで理不尽だと、こちらを責めるような顔だった。そんな、何も知らない、子どものような顔をして。
「ご、ごめ」
「……貴様がっ!」
 許せはしない。認めることも出来はしない。この男が、元就からすべてを奪ったというのに。それなのに今更、のうのうと目の前に現れるなど。
「貴様がすべて奪ったのではないか! なのに今更名を呼ぶか! 今更我の前に現れるか! 何も……何も覚えておらぬくせにっ!」
 あの瞳の憎しみの理由が、少しだけわかったような気がした。何もかもを奪われて、それで憎まずにいられる筈がない。安芸も、毛利も、もう何も、元就とは関係のないところに行ってしまった。何も残ってはいないのに、ただ記憶だけがある。
「……もう一度貴様に殺されれば、いっそ楽にもなれようぞ」
 子どもが震えている。何の力もない子どもだ。元就を殺すことさえ、この弱々しい子どもには出来ないだろう。
 元就はふらりと踵を返す。
 一体どこへ行けば、失ったものは取り戻せるのだろうか。

 結局、行ける当てなどいくらもなく、足は勝手に通いなれた道をたどっていた。この先に、自身の欲しいものがある筈もないとわかっているのに、それ以外の道を元就は知らなかった。

*

2011/11/04

*

+