御堂の灯3

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三吉三 / 妖怪パロ

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 一つ怖がらせてやろう。吉継はぶるぶると震えて見せると、つとめて声を低め、さも恐ろしげに小さな耳へ囁いてやった。
「それに御堂に行くには、墓場を通らねばならぬ。このように月のない夜に、墓場を横切るはさぞ恐ろしかろうなァ……」
 そういえば三日前に弔った無縁仏はそれは恨めしげな形相で、とまで言ったところで、フンッ、と小生意気にも鼻を鳴らす音が聞こえる。
「何のおそろしいことがある、ぎょうぶ。ほとけも死んではいるが、けっきょく人間のことだろう。だいいち、和尚の言うのが本当なら、死んだらすぐにりんねに入るわけで、化けて出るひまもないではないか」
「ぬしはよくもマァ、そう頭のまわることよ」
 吉継は呆れた。この子どもには恐ろしいという感情がまるで欠けているらしい。心が怯えるより先に、頭がまわる、口が動く。それが悪いこととは言わないが、大人から見てもさぞかわいげのないことであろう。
 かく言う吉継とて、他人のことを言えるほどのかわいげなど、持ち合わせてはいなかったのだが。

 クジの結果、吉継と佐吉は後ろから数えて3番目に出発することになった。こんなものは、最初か最後に当たらぬ限りは、とくにどうということもないものである。最初は誰も帰ってくる者のいないから、ことさら恐ろしく感じるものだし、最後は残った者供が物足りずにいらぬ怖がらせをやるから面倒だ。
 ともかく、マァ妥当な順番であろ、と思いを巡らす吉継のとなりで、佐吉はむっすりと黙っている。元から決して口数の多い方でないことを思えば、たいして気にすることとも思えなかったが、もしや、今頃になって恐ろしくなってきたのやもしれなかった。吉継に大言を吐いた手前、言い出せないのであろう。
 ヤレ、かわいや。
 吉継は佐吉の小さな手を力づけるようにきゅっと握ってやった。
「……ぎょうぶ?」
 こくん、とかたむく白い頭。金緑の目がきょとんと吉継を見つめている。
「なんだ、おそろしいのか」
 それはぬしの方であろ、と返しかけた言葉は、ついぞ口を出ることはなかった。
「大丈夫だ。わたしがついている」
 だから大丈夫だ、とにっこり笑った佐吉は、普段その顔を見慣れている吉継でさえ思わず見惚れるほど、愛らしかった。

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2011/06/17

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