御堂の灯4

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三吉三 / 妖怪パロ

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「おい、七のクジの番だぞ」
 まとめ役の小姓が声をあげる。吉継と佐吉の番である。二人は連れだって前に出ると、小姓から灯籠を一つ受け取った。小姓供が普段使えるのは坊主の使い古しの下げ渡しの灯籠で、渡された灯籠もそれであった。周りに張られた紙はところどころ破れており、ちょっとでも強い風が吹けば中の灯などすぐ消えてしまうだろう。さいわい今宵は風も穏やかだが、気をつけるに越したことはない。中の蝋燭に火をもらうと、吉継は右手でそれを持ち、左手で佐吉の手を握った。
 佐吉に持たせては、いつ消されるか気が気でない。
 吉継の意図をさっしたのか、佐吉も特に文句も言わず手を繋がれている。己が落ちつきのないことを、ちゃんとわかっているのだ。
「明日の朝一番に皆で改めに行くからな、嘘を吐いても途中で帰ってくればすぐわかるぞ」
 黙りこんでいる佐吉を怯えていると見たのか、小姓の一人がにやにやと笑いながら佐吉の顔を覗きこむ。むっと顔をしかめた佐吉が噛みつき返す前に、吉継は強く手を引いた。負けん気の強い佐吉には不満だろうが、ここで好きに喧嘩させてやるほど吉継の心は広くない。このような面倒事はさっさと終わらせて、早に佐吉を抱えて布団にもぐりこみたかった。
「行くぞ」
「……ああ」
 最後にきっ、と小姓のほうに鋭い一瞥を投げつけると、それきりぷいと前を向いて佐吉は素直にうなずいた。
 そうして二人は灯籠と互いばかりを頼りにして、夜の寺内へと、一歩をふみだしたのである。

 あいにくと月のない晩であった。吉継の目がとらえられるのは、己が手に持った小さな灯籠の照らす、ほんのわずかな範囲のみである。足元までは灯は届かぬ。せいぜいが肘を照らすほどにしか役に立たぬ明かりを注意深く前に突きだし、吉継は御堂への道をなんとかたどろうとした。
 普段よりめったに近寄らぬ場所である。ましてこうなにもかもが闇に沈んでいてはどちらが西か東かもわからない。ハテこちらで正しかろうかな、と吉継は佐吉の手を引き、細道へ足をふみいれた。
 この道がまこと正しいければ、少し行けば墓場に出るはずである。

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2011/06/27

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