御堂の灯5

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三吉三 / 妖怪パロ

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 さくさくと乾いた土を踏みしめ、二人は歩く。無言である。だいたい普段においても、彼らの間には雑談というものが数えるほどしかなかった。互いの間にそれをする必要性を、あまり感じなかったからである。
 言いたいことを言いたい時に言う、それが互いに許されていた。だから、吉継は佐吉がどういう家の生まれでどうした経緯で寺小姓になったかを知らず、また己の身の上を佐吉に話して聞かせたこともなかった。そして佐吉がそれを聞くことも、なかった。
 友と呼ぶにはその関係は些か呆気なく、けれども互い以外にはとりたてて友と呼べる者もいない二人にとってみれば、何が正しい友人関係かを知る由はなかった。もしかしたら友だとも認識していないのかもしれない。少なくとも吉継は己に友がいるとは思ったこともなかったし、佐吉に友だと言われたこともなかった。
 それでも、この世でもっとも近い人間は誰かとたずねられれば、きっとお互いの名を答えるのだろう。
「佐吉、ぬしは御堂に行ったことはあるか」
 ない、という答えを、吉継は予想していた。自分以外に親しくするもののいない佐吉のことだ。誰かにそそのかされたとして、自分の耳に入らないということはないだろうと思った。ましてや、用もない場所に興味本意でふらふらと出歩くような子どもでもない。
「ある」
 しかし、佐吉の答えは違った。吉継は驚いて、思わず佐吉を振り返る。その拍子に手にした灯籠の火が、ぶわりと風を受けて揺れる。あわてて吉継は両手で灯籠を支えた。このかぼそい火だけが今の頼りなのだ。消してしまっては、戻るのにも苦労する。
「まことか、佐吉」
「わたしがうそをつくというのか」
 安定を取り戻した火にほっと息をついて、吉継はふたたび佐吉に問いなおした。闇で見えぬが、むっとした顔をしているのは間違いない。佐吉は嘘がつけないのだ。やっかいな性分である。
「イヤ、いや。意外だったゆえ、な。まさか、ある、と返ってくるとは思わなんだのよ。われなんぞは、昼でも行きとうないゆえなァ」
 言いながら、左手で闇を探る。満足に目も効かぬ夜に、一度離した手をつなぐのは至難の技だ。ひらひらと動かしていた手に、温みがきゅっとからみつく。
 それに吉継はにこりと笑って、また足を動かしはじめたのだった。

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2011/07/24

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