御堂の灯6

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三吉三 / 妖怪パロ

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 不意に開けた場所に出たのを、吉継は手に触れる草のとぎれたので知った。一応は均してあるのだろう、足下もいくぶんか歩きやすくなっている。
「どうやら合っていたようよな」
 かがけた灯籠のわずかな光を返して、辺りの墓石が不気味に光った。霊魂など欠片も信じていない吉継とて、思わずぴくりと体をゆらす。
「ぎょうぶ、どうした」
「どうもせぬわ、どうもなァ」
「そうか」
 あっさりと返す佐吉は、強がりではなく真から怖くないらしい。とんだ胆の太さよな、と吉継はこっそり嘆息する。連れがもう少しでも怯えていれば、それを見て吉継の方にも余裕も生じようが、こうまであっけらかんとされては逆に己一人にばかり恐ろしさが溜まっていくようである。実際、吉継は下らぬと見下していたこの肝試しに、僅かばかりの恐怖を覚え出していたのである。
 同じ怪談でも、昼の陽光の下で行うのと、丑三つ時に蝋燭の灯りだけを頼りに行うのではまったく異なるように、小姓共が大勢いる本堂で考えるのと、実際に足を踏み入れた夜の墓場ではまるで違っているのであった。
 夜の墓場はさぞ恐ろしかろ、と佐吉に脅しのつもりで口にした言葉が、今頃身に迫ってくる。
「ぎょうぶ、きさま、手に汗をかいているな」
 ぽそり、と呟かれた佐吉の言葉にさえ、心の臓がはね上がる心地がする。手の中の細い指がぬるりと滑りそうになるのを、慌てて握り直す。
「それは……スマヌナ。とはいえ、拭うためには一旦手を離さねばならぬ。この闇の中、離した手をまた繋ぐは難儀ゆえな。ぬしには気持ちが悪かろうが、ちと我慢してくれやれよ。……まったく、日はすっかり落ちたとはいえ、ちいとも暑さが和らがぬなァ」
 一体どの口が紡ぐのか、吉継はさらさらと尤もらしい理由を口にして、更には言い訳めいたことまでつけ足してやった。一つとはいえ年下の佐吉が平気な顔――実際のところ、顔などまるで見えぬので、声の調子でそうと吉継が思っているだけなのだが――をしているというのに、怯えた様子は見せられぬという、吉継の歳相応の意地であった。周りの子に比べれば幾分か大人び、賢しいことを言うといっても、吉継もまた、七つか八つの子どもでしかなかった。
「そうか」
 佐吉は短く返して、また黙りこんだ。用がなければ佐吉は喋らぬ。平素ならば好ましい佐吉のこの性分が、今の吉継には恨めしい。せめて他人の話し声でもすれば、少しは気が紛れように。
「ぬし、御堂に行ったことがあると言うたな」
 佐吉の返事はない。互いに見えぬということも忘れて、頷いているのかも知れぬ。繋いだ手がわずかに揺れた。
「なにゆえ行きやった」
 話す内容など、なんでも良かった。

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2011/10/23

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