御堂の灯7

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三吉三 / 妖怪パロ

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 口にした後になって、嫌な想像が吉継の頭をかすめた。
 性格に難があるとは言え、佐吉は見た目だけは十分すぎるぐらい美しい子どもなのである。至って平凡顔の吉継には、その様な誘い来たこともないが、寺の僧侶の中には美童相手に不埒な行いを働く者もいるという。御堂の辺りは昼夜問わず、人っ子一人寄りつかぬ。肝さえ太ければ、人目を避けた逢瀬にはぴったりの場所であろう。
 寵を逆手にとり、他の小姓共を相手に我が物顔で振る舞う輩もおらぬではないが、潔癖すぎる嫌いのある佐吉にそのような処世術の使える筈もない。そのような事実があったところで、吉継に漏らすことさえ出来ぬに違いなかった。
 ずるずると悪い方悪い方にばかり傾く思考を裏切って、あっけらかんとした声が返る。
「そうじに来た」
「……掃除、とな」
 一人でか、と問えば、そうだ、と言う。
 佐吉は嘘の吐けぬ子どもだから、それが真実なのであろう。知らず詰めていた息をふぅと吐く。それにしても、一人で掃除などと、きっと佐吉をよく思わぬ坊主か年嵩の小姓に押し付けられたに違いない。カワイソウニ、と唇だけで呟いて、吉継は笑った。
「なぜわらう」
 その問いには答えず、また笑う。よくよく考えて見れば仮にそのようなことがあったとして、佐吉が黙っているようなはずがないのだ。
 サテ、恐ろしすぎて阿呆になったか。
 笑う吉継の手を、不意に佐吉がぎゅうとつかみ、
「そこはあぶない」
 言って軽く引っ張られる。わずかに右へ寄った吉継が笑いを止めて灯りをかざすと、はたして地面に崩れた墓石がごろり転がっていた。そのまま歩き続けていたなら、佐吉も巻き込んで盛大に転げていたことであろう。そうなれば勿論、手元の灯りも無事ではあるまい。
「よう気づきやった、佐吉。よくもこの暗い中、気づきやったなァ」
 返事はなかったが、吉継には佐吉が笑ったのがわかった。佐吉は決して、大口を開けけたたましい笑い声など上げはしない。ふわりと、花がほころぶようにはにかんで見せるのである。
 もっともそんな可愛らしい笑いも、吉継以外は知る由もないのだが。
「ぎょうぶはわたしが守るのだから、これくらいは当たり前だ」
 わずかに弾んだ声。佐吉は本当に、吉継から見ても不思議な子どもであった。

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2011/11/04

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