御堂の灯9

*

三吉三 / 妖怪パロ

*

 ふと辺りの闇がいっそう濃くなった。墓場を抜け、竹林に入ったのである。もともと明かりといえば手元の灯籠ばかりの晩とは言え、その頼りない灯りさえも、迫る闇に押し潰されるかと思われた。
 けれども、この竹林さえ抜ければ、御堂はすぐそこである。ここからは短い一本道が通るのみで、迷う心配さえない。
「いよいよ暗くなりやったわ。ヤレ、われが先に行ってやろ」
 灯籠をかがけて言い出せば、無言で佐吉が立ち止まった。追いこしざまに、握りあった互いの手の甲だけが、灯りを受けてふっと白く輝く。再び闇に沈んだ手の先は、はたして本当に己の考え通りの人物に続くものだろうか。不意によぎった恐ろしい考えを、確かめることを吉継はしなかった。
 たとえ闇の中だとて、己の傍に佐吉がいることは、間違いようのない事実のような気がした。

 夜風がさわさわと竹の葉を揺らす。けれども吉継の身に届くのはそんな微かな音だけで、肌を撫でる空気はそよとも動かない。暑いのか寒いのか、それさえも段々に曖昧になる暗闇である。灯籠の灯がちろちろと揺れる以外に、見ている景色が変わるわけでもない。進んでいるのか、止まっているのかも、わからなくなった――その時、ぼんやりとした明かりが現れた。
 目指す御堂にやっと到着したのである。
「着いた、ツイタ。サテ、はやに用を済ませて帰りやろ」
 自然早足になるも仕方あるまい。佐吉の手を引き引き、御堂へ近づく。近寄った御堂の格子戸に、クジがいくつも結びつけてある。前に来た小姓共が結んでいったものであろう。なにも、吉継と佐吉のみがここを訪れたわけではない。
 わかっていたことではあるが、同じ道をたどってきた者が己等の他にもいる証左を目の前に見せつけられることの、こんなに心強いことはなかった。
 一旦佐吉に灯籠を預け、袂からクジを取り出す。わずかばかりの段に足をかけ、吉継は腕をいっぱいに伸ばして格子にクジをくくりつけた。突然に破れ障子の隙間から風が内から外へと吹き付ける。
「ヒッ!」
 思わず引いた体が、段を踏み外してぐらりと傾いだ。即物的な恐怖に全身の血がさっと退く。
 考えるより先に閉じた目を、愚かなと笑う暇もなく、足は宙に投げだされた。たかだか二寸三寸だかの高さだといえど、まともに転べばさぞ痛かろう。しかし、横ざまに倒れた体に思ったような衝撃が走ることはなかった。倒れたことは、倒れたのだが、地面よりもっと柔らかいものの上に、というか。
「……っ佐吉、ぬし、なにをしていやる!」
 吉継は己が下敷きにしていた物の正体を知るや、恐怖も忘れて大声をあげた。

*

2011/11/16

*

+