御堂の灯10

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三吉三 / 妖怪パロ

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吉継の代わりにべたり、地面にふせっていたのは佐吉であった。一呼吸か二呼吸の間、ぽかんとすぐそばに転がる白い頭を見ていた吉継であったが、はっとして我に返ると慌てて己よりひとまわり小さな体の上から飛びのいた。
「すまぬ、すまぬ佐吉、大丈夫かえ」
 さては後ろに立っていたか。まさか転ぶとは思わなかった為、離れていろと声をかけるのを忘れていた。少し考えればわかりそうなものを。
 頭は冷静にそんなことを考えているくせ、実際には佐吉にとりすがり、おろおろと体を揺さぶっている。それなのに、佐吉が立ち上がる気配は微塵もなかった。うぅ、と小さくうめき声をもらす以外はぴくりとも動かぬ。
「佐吉!」
 幾度名を呼んだのか、まさか骨でも折っているのか佐吉は一向に起き上がらない。そのうち声に涙が混じりはじめる。どうしよう、どうしたらいいのだろう、もし、佐吉が、
「……あの時と逆だ」
 のぞきこんでいた顔が、いつの間にか上を向いてぽつりとそんなことを言った。
「っ、佐吉! 無理に動くでない!」
 言ったかと思えばもういきなり、もぞもぞと上体を起こそうとしている。さすがに仰天して、吉継は佐吉の肩を押さえた。が、その手を払いのけて、なんでもないようにぴょんと佐吉は立ち上がった。
「なっ……ぬ、ぬし、どこも傷むところはありやらぬのか?」
「きさまこそ、ケガはないか」
 さきほどまで、いらえもできずにうめいていたのが嘘のように、けろりとして佐吉が答える。その様からはなにやら大きな怪我をしたとは、とてもではないが思えなかった。もしか、頭を打ったかして、痛みもわからぬようになってしまったのなら話は別だが、確かにすぐ前までは大層痛がっていたように見えたのだから、それはあるまい。
 さては夢か幻か、実は地面に転がって夢をみているのは自分のほうかもしれぬと、戸惑いのあまり愚にもつかぬことを考え出す吉継の脇では、佐吉が何事もなかったように放り出した灯籠を拾い上げている。
 吉継がひっくり返るのに、咄嗟に脇によけて置いておいたというのなら、大層機敏なことである。その機敏さで己がよければよいものを、と吉継は呆れ、苦笑いした。佐吉は頭のいい子どもだが、どこか抜けている。
「かえるぞ」
「……ぬし、ほんに怪我はないな?」
 再度問えば、ない、ときっぱり返される。差し出された手を恐る恐る握れば、存外強い力で握りかえされた。
「なら、よいわ。サ、はやにもどりやろ。とっくに日をまたいだか。われはねむうてかなわぬわ」
 行きとは違って、今度は佐吉が前を行く。体ひとつはさんだ先の灯りがゆらゆらゆれる。来る時までの恐怖がまるで消え失せているのには、吉継は気がつかなかった。

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2011/12/04

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