治部殿狐3

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三吉三 / 人外 / 文学パロ

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 黒羽二重の紋着、銀朱の袴に蝋鞘の大小を二本差している様は他の侍衆と変わりはないが、それでもじわり、と闇に光が滲むような、白と黒とが反転した瞳は錦城天守が主――三成と言えども今の今まで見たことがなかった。
 思わず、ほぅ、と息を吐く。
 すれば、侍はぐるり晒を巻いた頭を振って、何が面白いのか、ヒヒヒと笑った。
「この面が珍しゅうござりますかえ」
「貴様のような面相の人間は初めて見た」
「ヤレ、化け物よりも化け物じみてあるか」
 途端、未だ梯子に足をかけたままの人に向かって、天守の二隅から殺気が走る。それを軽く目でいなし、三成は再び侍へと視線を戻す。
「貴様の顔をよく見たい。こちらへ」
 外して脇に置いてあった長物で、手前の床をこつりと叩く。侍はやはり楽しげに笑い、言う通りに三成の前へと腰を下ろした。
「布を取れ。晒を除けろ」
「美しゅう顔でぬしさまは、酷いことを仰いますなァ」
 それゆえの人外か、となにやらわからぬことを言いながら、侍は頭から被った白い布を落とし、きつく巻かれた晒をするするとほどき捨てた。
 三成は、現れた面をとくと見る。
 美しい、と思った。

 じっと己の顔を眺めたまま動かなくなった人外に、吉継は思わず身体を強ばらせた。見目麗しい若衆ならまだしも、このような病で醜く崩れた面、なにゆえ好んで目にしようか。
 物珍しさからか、とも思ったが、それにしては向けられる瞳が純に過ぎた。
 このような目をして己を見た者が、果たして過去にあったかどうか。侮りも嘲りもない、すべてを見透かすような目である。睫毛を一寸、動かすのもためらわれるような、そんな目だ。
 その一瞬もあれば、人外のこと、吉継を喰らうもなにも思いのままであろうよな。
「待たれよ」
 目を合わせたまま、吉継はなんとか声を絞り出した。情けないことに、みっともなく震えている。今死なねばどうせ後で死ぬ。たとい人外といえど、恐れることなど何一つない筈であるのに。
 らしくはないわ、大谷刑部。今更に命が惜しゅうなりやったか。
 震える己を叱咤して、吉継は意図して唇を歪めた。
「何を待つことがある」
「われを喰らうを」
 ヒヒッ、と高く笑ってやれば、人外は麗しい顔に似合わぬ無防備な面で小首を傾げた。

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2011/05/04

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