治部殿狐14

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三吉三 / 人外 / 文学パロ

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 再び逸らされるかと思った視線は、今度は吉継へと据えられたままだった。三成としてはただ見ているだけなのだろうがあまりの鋭い眼光に、吉継の方が視線を逸らす。
「……われが、ぬしのものか」
「そうだ」
「鷹の責でも感じているならお門違いよ」
 もしもそうなら、本当に律儀な化け物である。化け物にしておくのがもっいないほどだ。それとも人ではないからこそ、彼はこうなのか知らぬ。
 しかし、三成は違う、と首を横に振る。何故か表情に苦いものが混じる。
「貴様が勝手に生きるなら私はそれでよかった。しかし、貴様のすべてが死ぬのは許可しない」
「なにゆえ死ぬかも知らぬのにか」
「人は意味なく死ぬものだと、左近が言っていた」
 三成の言葉に、一瞬きょとんと目を丸くし、ついでヒャヒャッ、っと吉継は高く笑う。
「左様、サヨウ! まこと死ぬも生きるも意味はあるまい!」
 吉継が死ぬのは実際、鷹の所為である。大した成果もなく帰城する、その鷹狩り行列で、あれに白鷺が、と言ったその咎である。平生からその存在を疎み、遠ざけている吉継の言でも、この獲物の前には皆浮かれた。何しろ、兎一匹獲れぬままの帰還である。それが見事な白鷺が、天守の破風に乗っているというのだから、まさに鴨が葱でも背負ってきたように見えたことであろう。主はすぐさま鷹を放つよう命じ、鷹匠は勇んで鷹を飛び立たせた。人の思惑など知らぬ白鷹は風を切り、まっすぐに獲物を目指し、そうしてその爪を鷺へとかけようとした瞬間。
 ふっ、と消え失せた。
 あれは天守に棲むという古狐――狐のくせに治部殿などと官位で呼ばるる狐である――の所為に違いない、と人は口々に吉継を責めた。御前が騙されずばみすみす狐にくれてやることもなかったろうに、と。
 だから、吉継が死ぬのは鷹の所為であり、鷹を掠めたこの化け物の所為なのである。
 それでも、ここに来ずとも、いつかは殺されることになっていたであろうと、吉継は思っている。死病を患う吉継を、誰も彼もが疎んでいた。閑職や暇出しで済むには憎まれすぎてもいた。
 上手く立ち回り隙を見せずにいた吉継を、ここにきて殺す算段が立って、皆喜んだことだろう。
「……あぁ、ほんに、意味もなくようも生きながらえたものよなァ」
 ちらちらと光る篝に惹かれ、欄干に身を寄せた吉継の足が――ぐらり、崩れた。

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2011/07/13

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