治部殿狐18
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三吉三 / 人外 / 文学パロ
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瞼が重い。腕も、足も、どこもかしこも、重石をくくりつけられたように、重くて重くて仕方がない。
それでも無理無理、吉継は顔を動かし、瞼を上げ、腕を動かそうとした。霞む視界に化け物の男の、白い顔がぼんやりと映る。
泣いていやるわ、と吉継は唇の端を引き上げた。
引き上げた、つもりである。実際の吉継はぴくりとも動けはせぬ。今、三成がどんな顔をしているかさえも、わからぬ。
なのに、わかるのだ。彼が泣いているのが。
白い顔が更に白く、切れ長の瞳が情けなく歪み、唇が言葉にならない言葉を震えながら紡ぐのを、吉継は知っている。知って、いるのだ。
「わ、……は……」
逝くのか。残して、逝くのか。
いつ死んでも良いと思っていた。武士としての覚悟ではなく、体を犯す病魔が不治のものだと知った時から、吉継は生きるのを止めたのだ。どう足掻こうが逃れ得ない運命が、誰よりも近く、側にある。それ故に他人に避けられ疎まれるのならば、己一人は恐れるまいと。むしろこれを忌避する人々を嘲り見下してやるのだと、そう。
だから、最期など、恐ろしくはない、と。
「み……っ、な……」
ごぼり、と喉が粘った水音を立てる。頬を温いものが伝う。
――また逝くか、ぬしのおらぬ地獄へ。
不意に過った言葉に、唇が震えた。一層の恐怖が、身体を駆け巡る。考えるより先に体が強張り、渾身の力を奮って腕を動かす。三成へと、手を伸ばす。
「い、や……」
「刑部」
三成の声がする。どうしてか、驚いたような声であった。
「貴様、もしや」
「早く選ばねば死ぬぞ」
何か言いかけたところに、別の男の声が被さる。聞いたことのない声だが、知っているような気も、またした。
「陸奥!」
「何を怒るか、治部。我は忠告してやっているのだ」
ハッ、と男が鼻で笑う。
「今は貴様の呪でなんとか生きてはいるようだが、これの半分はまだ人よ。放っておけばその内死ぬ」
「貴様ぁっ!」
「事実ではないか。貴様こそ何を躊躇う。早く選ばせねば、死なぬものも死ぬ」
男の言葉を必死で理解しようと耳をそばだて、回らぬ頭を働かせる。その言い方では、まるで、吉継が死なぬ術があるようではないか。そんなことは可能なのか。
「ぬ、し……と」
あの時と、異なる未来を選ぶことが出来るなら。
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2011/09/19
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