蝶嫁御2

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三吉 / 女体化 / 豊臣軍

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「おや」
 いつしか三成の親代わりのような気でいた秀吉だから、きっと半兵衛も同じ気持ちでいるのだろう。やけに真剣な面持ちで釣書を見比べていた半兵衛が、急に驚いたような声を出した。
「どうした」
「これ、差出人が豊後の大友だ」
「あの大友か」
 渡された釣書に、秀吉も半信半疑で目を通す。確かに大友現当主、大友宗麟の名と見慣れぬ南蛮文字、FRCOの印が押してあった。
「今の当主は随分若いと聞いていたが、姉か妹がいたのか?」
「さぁ、聞いたことがないけど。弟は周防の大内に養子にやったみたいだけど、そっちはまぁ、元就くんが放っておかないだろうね」
「ふむ」
 一見して良いはなしではある。豊後の大友といえば、鎌倉から続く九州の名家であり、九州探題を務める名跡でもある。近年は薩摩の島津に押され気味で、当主も幼年と不安もあるが、だからこそ、むこうも豊臣と縁を持とうという気になったのであろう。
 豊臣としても、秀吉自身が武士の出ではないことで方々からの反発もある。それを抑える為にも、また今後世界進出を考える上でも九州に拠点を得る必要がある。
 豊臣としては、断る要素はまるでない。ちらり、と半兵衛を見れば、やはり同じことを考えているのか、顎に手を当てたままなにやら思案をめぐらせている。
「どう思う、半兵衛」
「いいはなしだと思うよ。大友なら地理的にも遠い分、外戚として苦労させられることもないだろうしね。それに今の大友当主は南蛮貿易にも積極的だ。新しい文化の流入が、豊臣の力になるだろう」
 うん、と一つ頷くと、半兵衛は晴れ晴れとした笑顔を見せた。
「これに決めよう、秀吉」
 あまりあっさり言うものだから、秀吉は慌てた。普段ならば半兵衛の立てた策に異見を言う秀吉ではないが、事は息子同然の子どもの婚姻である。そうか、と簡単に頷けるものではない。
「半兵衛……家柄でいえば、確かにいいはなしではあるが、相手の娘はどんな娘なのだ? 佐吉は他人に誤解されやすいところがあるからな。出来れば気立ての優しい娘が……」
「そんなもの知らないよ」
 ずっぱりと、半兵衛が言う。
「こういうのは一番に家同士の釣り合いがとれているかが重要だからね。当人同士の相性なんかは関係ないのさ。まぁ、頭は悪くないに越したことはない」
 四書五経が諳じられるなんて、女人にしては妙な趣味だと思わない、秀吉、となぜか楽しげに笑って見せた半兵衛に、秀吉は、せめて返事は佐吉に意見を聞いてからにせよ、と言うことしかできなかった。

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2011/03/07

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