蝶嫁御3

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三吉 / 女体化 / 豊臣軍

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 ……よくよく考えれば、あの佐吉が半兵衛の言に異を唱えることなど、あるはずがなかったのだ。
「そのお話、つつしんでお受けいたします」
 真面目な顔をしてそう言いきった佐吉に、秀吉はめまいを覚え、半兵衛はといえば喜びに顔を輝かせていた。
「じゃあ、さっそく大友に承諾の返事を書かなくちゃ」
「おいっ、半兵衛……」
 足早に廊下を走り去っていった半兵衛には、呼び止める隙さえありはしなかった。中途半端に伸ばした手を秀吉はしばらく所在なげにさ迷わせていたが、一つ、ため息をついてから、佐吉へと向き直る。
 我が友は、一旦こうと決めたら行動が早い。
「佐吉よ、本当によかったのか?」
「半兵衛さまの仰ることに間違いはございません。それと、もう子どもではありませんので、佐吉ではなく三成と……もしや、秀吉さまは反対されていたのですか!?」
 とたん、さっと顔から血の気の引いた佐吉、もとい三成をなだめるのに、秀吉は全神経を使わねばならなくなったのだった。

 祝言の日取りはすぐと決まった。
 トントン拍子にはなしが進んだとしてもこうは行くまい、嫁入り仕度もあるだろうに、最初の返事からわずか3月も経たぬうちに、輿入りが決まったのだ。おかしい、と首をひねる秀吉の隣で、半兵衛はといえば、あちらもお家騒動で家中がごたごたしているんだろう、腹違いの姉など足元を掬われる要因にしかならないから、さっさと遠くへやってしまいたいんだろうさ、と涼しい顔。当の三成といえば、遅れるならまだしも早く来るなら良いのではないですか、という有り様。あまり早すぎるとは思わぬか、と問えば、早く済めばそれだけ、半兵衛さまのお手を長く煩わすこともございません、とまるで花婿らしからぬ事を言い出す始末だから、一体誰がこの子をこんな風に育てたのかと頭が痛くなりそうだった。
 あちらからこちらへ移ってくるだけの事に、時間をかけすぎるのもどうでしょうか。
 はてはそんな事まで口にし出した三成に、爆笑する半兵衛を見て、秀吉はそうか、半兵衛の影響か、と頭を抱えることになった。
 そんな風にして大阪城内では、準備だけが着々と進んで行ったのだが、肝心の花嫁一行の音沙汰が、ここへ来てぷつり、と途切れてしまった。府内を出たという報せを最後に、今どこにいるかもとんとわからぬ。本来ならばこちらから出す筈の迎え役も断られている故に、打つ手なしと言ったところ。それでも今さら反故にもできず、向こうを信じてひたすら待つしかない。そうしている間に、約束の日がやって来た。

 ――晩遅くやって来た花嫁は供も付けずに、一人馬に揺られて大阪城の門を叩いた。

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2011/03/10

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