蝶嫁御4

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三吉 / 女体化 / 豊臣軍

※戦国時代無視して、白い花嫁衣装姿です。書いてる人の趣味として見逃してください……!

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 まるで死霊が輿入れしてきたようであった、とは、門の表で番をしていた老兵の言である。
 対蝶の紋が入った提灯を馬の前に吊らさげて、闇の中、ぽくりぽくりと蹄の音がなり響く。ちりん、ちりんと手綱に結んだ鈴の音が、踊るように鳴って、そのうちに白無垢を着た娘の姿が、ぬうと漆黒の中から、にじみ出すように現れた。
 娘の乗る馬の吐息と足音の外に、物音一つ、聞こえはしない。大友ほどの大身ならば、たとい妾腹の姫君であれ、供の一人二人も付けねば外聞にも響くだろうに。それに、いくらなんでも豊後から大阪までの長旅である。さすがに娘一人で寄越しはしまい、と後ろを覗き込もうとした老兵の視線を遮るように、すっと娘が馬を進めた。
「もうし」
 鞍に横掛けした娘の、目映いほどの白い足袋に包まれた小さな足が、老兵の目の前におとなしく揃えられている。
 慌てて上げた視線の先、深く被った綿帽子からわずかに覗いた小さな口。紅を塗った唇が、ひらり、と蝶のように動いた。
「大友から参った吉継と申す。石田治部少輔三成さまに、お取り次ぎ願えるかえ」
 その声を聞いたとたん、ぞくり、と老兵はかすかに体を震わせる。
 ……可憐な見目に反して、その声は老婆のように嗄れていた。

 秀吉が、憚るようにひっそりと、しかしまるで怪談でも話すような調子で語られるこの噂を耳にはさんだのは、祝言も無事済んだ、その後のことである。
 今となっては笑い話にも出来ようが、その晩、秀吉を襲った驚きといったら、今までになかっただろう。しかしながら、やはりこの花嫁に、一番驚き、うろたえ、怒りをあらわにしたのは何を隠そう半兵衛だった。

「姫さま、ご到着にございます」
 そう襖の向こうから伝える侍女の声が、震えていることに気づかなかったのは、多分、その場にいた全員である。蝋燭の灯りでぼんやりと明るい一室にて、豊臣の忠臣、秀吉が左腕と呼ばれる日もそう遠くはなかろうと期待される若者、石田治部少輔三成の祝言は執り行われていた。
 最も奥、上座の向かって右側には礼装をしたまだ幼さの残る齢11の花婿が座り、その手前には君主であり、親代わりでもある秀吉、向かいにこれまた親子同然の間柄である半兵衛が座る。本来、祝言には花婿の親戚縁者が集うものであるが、三成には疎遠である為にこの二人が代わって出席しているのである。
 残す主役は花嫁、のみ。

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2011/03/14

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